Secret Lover's Night 【連載版】
どうしても付いて来ると聞かない悠真を連れ、智人は家に戻った。

扉を開けば千彩の姿がある。そう思っていた智人は、その姿が無いことにグッと眉根を寄せて二階へと続く階段を睨み上げた。

「おかえり、智人」
「…ただいま」
「ただいまー、おばちゃん」
「あらあら。おかえり、悠真君」

不機嫌な智人とは対照的に、悠真は晴人に会えると思うだけでご機嫌で。母に挨拶を済ませると一目散に階段を駆け上がり、晴人の部屋の前で一呼吸置いて扉をノックした。

けれど、中からは何の反応もなくて。聞き耳を立ててみるも、物音一つしない。

「おらんのかな?」
「おかんが上や言うてたぞ」
「ほなおるんやん。にーちゃん、入るでー」

一応断ったつもりで扉を開け、目に飛び込んで来た光景に悠真はぴゅーっと口笛を吹いた。

「大好きやな、ちーちゃんのこと」
「…やな」

千彩が擦り寄ると言うよりも、晴人が甘えて擦り寄っている。ベッドの上の二人のそんな姿に、智人はふっと視線を逸らして隣にある自室の扉を力一杯閉めた。

「おー、こわ」
「ん…ちぃ?」

あまりに大きな音に、眠っていた晴人がうっすらと目を開く。そして腕の中に千彩がいることを確認し、再び安心したように眠りに就いた。

「やれやれー」

いくら「晴人にーちゃん大好き」な悠真でも、こんなにも幸せそうな顔をして眠られていては起こすことも出来ない。そっと扉を閉め、起きるまでこっちで待つか…と隣の智人の部屋の扉を開いた。

「お邪魔するで」
「出てけ。下行け。おかんと喋れ」
「俺は今傷心なんや!って?」
「ちゃうわ」
「バレバレやで?」

ニヤリと笑い、悠真はベッドに転がる智人を見下ろす。高校時代にもこんな顔をしていたことがあるな。と、懐かしい思い出に浸りながら、目を瞑って必死に歯を食いしばる智人の頭をくしゃくしゃと撫でて再び笑った。
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