Secret Lover's Night 【連載版】
智人と悠真が戻ってから20分程で目を覚ました千彩は、モゾモゾと動いて晴人の腕の中を抜け出し、物音のする智人の部屋へと向かった。

机の上に置いてあった本を抱え、ぬき足差し足でそっと部屋を出る。

「ともとー、おかえりー?」
「おぉっ、ちーちゃんおはよう。具合どう?」
「大丈夫。おかえり、ゆーま」
「ただいま」

扉を開けてひょいっと顔を覗かせると、ベッドに仰向けに転がる智人と床に座って雑誌を広げている悠真の姿がある。ペタペタと歩み寄ると、悠真が笑って顔を上げてくれた。

けれど、智人は何の反応も返さない。それが千彩には不満で。

むぅっとふくれっ面をして部屋の中に入ると、智人の横っ腹にピッタリと寄り添って自分も同じようにベッドに転がってみせた。

「ともとー、おかえりってば」
「…おぉ」
「おかえりー」

さすがにそうまでされてしまえば、智人も反応しないわけにはいかない。ゆっくりと瞼を持ち上げ、ピタリと自分に寄り添って眠そうな目で見上げる千彩の頭を撫でた。

「何持って来てん」
「猫である」
「読めたんか?」
「まだ。辞書貸して?」
「辞書買うたったやろ」
「ちさのやつに載ってない漢字があった」
「どれ?」

いくら小学生用と言えど、大人が使う物とさして変わらないはず。どんな難しい漢字が書いてあるのだろうか…と、智人と悠真は千彩がベッドに広げた本を覗きこんだ。

「何やこれ。俺もわからんで」
「旧字体やろ」
「そりゃ小学生の辞書には載ってないわなー」
「やな」

頷きあう二人の間で、千彩は何だかとても嬉しそうで。うつ伏せて足をバタバタと上下させながら二人の顔を交互に見て、クスクスと笑い始めた。
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