Secret Lover's Night 【連載版】
いつものように水着姿の千彩と腰にタオルを巻いた智人がバスルームで向かい合う。シャンプーを泡立てて自分の頭で遊ぶ千彩にシャワーを掛けながら、智人はドタバタと聞こえる足音にチッと舌打ちをした。

「ん?」
「晴人が起きたみたいやぞ」
「あれー。ちさ、起こさないように静かにしたのにな」
「悠真が起こしたんやろ」
「あー!ゆーま悪い子!」

千彩も千彩なりに気を使って、晴人を起こさないように静かに着替えを取って部屋を出たのだ。そんな努力を無駄にした悠真に頬を膨らせていると、一気に頭からシャワーを浴びせられ、抱え上げられて湯船に浸けられた。

「冷えるから入っとけ」
「はーい」

お気に入りのアヒルの水鉄砲を手にしても、千彩は不満げで。けれど、機嫌を取るよりも放置を選ぶ智人は、さっさと自分も頭からシャワーを浴びて髪を洗い始めた。

「ちさがする」
「えー」
「ちさがするの!」

智人の手からシャンプーを奪い取り、千彩は美容師気分だ。こんな日常のやり取りが、智人の心から少しずつ苛立ちを拭い取ってくれる。

「かゆいところはございませんかー?」
「はいはい。ございませんよ」

遊んでやっていると言うよりは、完全に遊ばれている。そんな状態の智人の前に、寝起きにも関わらず怒りメーターMAX状態の晴人がバーンッと扉を開いて現れた。

「わっ!」
「ドア壊れるがな」

驚く千彩と、呆れる智人。そして、怒りに声も出ない晴人。微妙な空気のバスルームは、扉が開かれたことによってひやりと冷たい空気が流れ込んだ。

「寒いから閉めてもらえますか」
「・・・」
「はるー、ともとが風邪引くよ?」
「もっと言うたれ」
「はるー?はるってばー」

寝起きの頭をフル回転させ、晴人は取り敢えず扉を閉めてその場にしゃがみ込んだ。湯船に浸かる千彩と、その千彩に大人しく椅子に座ってシャンプーをされている智人。

もう何が何だかわからない!と、叫び出したくなる衝動を抑え、晴人はシャワーの音が止むのを待って喉に詰まる言葉をゆっくりと押し出した。

「なぁ、お前ら何してんの?」
「お風呂ー!」

元気よく返って来た千彩の声には、何の躊躇いもない。それにガックリと肩を落とし、晴人はぐしゃぐしゃと頭を掻いて大きく息を吐き出した。
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