Secret Lover's Night 【連載版】
「そうカッカすんなよ。カッコ悪いぞ、お兄」
「お前…自分が何してるかわかって言うてんのか?」
「しゃあないやろ。千彩が俺と入る言うて聞かんのやから」

確かに、智人の言葉は嘘ではない。

何度母と入れと言ったとて、千彩は自分と入ると聞かなかった。最大の妥協案として水着の着用を義務付け、自分も必ずタオルを腰に巻いた。入るタイミングも出るタイミングもずらしているから、裸を見ることも見せることも無い。

智人とて如何なものか…と思っているのだ。それなのに、自分が望んでこうしていると思われては堪らない。冷やかな声で晴人を制す智人に、千彩がぴゅーっとアヒルの水鉄砲から出したお湯を当てた。

「怒ってるん?」
「怒ってんのはあっち」
「はる?」
「せや。だからママと入れって言うてんねん」
「なんで?ちさ、ともとと一緒がいい」
「はいはい、わかった。もう上がれ」
「えー!もっと遊ぶ」
「外で晴人が待ってんやから、さっさと上がって髪乾かしてもらえ」
「でもでもっ!今日はまだお話してないよ!」
「上がって晴人とせんか」
「うー!」

いくら粘られたとて、いつものように二人で湯船に浸かって話し込むわけにはいかない。あまりのカッコ悪さに呆れはしたけれど、そこまで晴人を追い詰めるようなことは智人もしたくはない。

「ほら、上がった、上がった。交代や」
「はると?」
「何でや。何で俺がこの年になってまで兄貴と一緒に風呂入らなあかんのや」
「温泉?」
「ここは家。ほれ、さっさと上がれ」

まだ粘ろうとする千彩を引っ張り出し、智人は扉を開いてバスルームを追い出す。しゃがみ込んだままの晴人が、じとりと智人を見上げていた。

「そいつ今から水着脱ぐけど…そこで見てんの?まぁ、ええけど」
「俺、リビングおるから」
「後で髪してくれる?」
「おぉ。ドライヤー持っておいで」
「うん!」

さすがの晴人も、脱ぐと言われてはそこに留まるわけにはいかない。ゆっくりと重い腰を浮かし、その場を離れようとした時だった。


「文句は千彩に言うてや」


背を向けた智人にそう言われ、悔しさに奥歯をギリギリと鳴らしながら、晴人もパタンと扉を閉めた。
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