Secret Lover's Night 【連載版】
「ねー、ともと」


晴人が出たと同時に、千彩は水着を脱ぎながら智人に声を掛けた。

「んー?」
「はるがね、帰っておいでって」
「東京に?」
「うん」

おそらくそう言うだろうと予想していた智人は、さして驚きはしない。タオルを外してのんびりと湯船に浸かりながら、ぼんやりと千彩の話を聞いていた。

「でも、ちさここに居るって言った」
「へぇ」

千彩のその答えも予想していた。

「約束したもんね」
「せやな」

智人と千彩の間には一つの約束がある。それを晴人に上手く伝えられなかった千彩は、取り敢えず智人に話すことでしっかりと晴人に自分の思うことを伝えようと思っていた。

「ちさ、病院に行かなくてもいいくらい元気になる」
「おぉ」
「そしたら、はると一緒に幸せ守っていけるもんね」
「せやな」
「おんぎだよ、おんぎ」
「恩義なぁ」

千彩にとって晴人は、「大好き」なだけではない。

嫌だ嫌だと思っていた場所から助けてくれた。何も持っていなかった自分に柔らかなベッドを与えてくれ、可愛い服を与えてくれ、美味しいご飯も作ってくれた。吉村と暮らしていた頃よりも随分と良い暮らしをさせたもらった。恩義を感じるには十分なのだ。

「はるがね、ちさに一緒におってほしいって」
「おぉ」
「はるのお願い叶えるために、ちさは今しなあかんことを頑張る」
「せやな」
「ともとと約束したもんね!」

これからのために、今しなければならないことを一生懸命に頑張る。

それが智人と千彩の約束で。智人はバンドを、千彩は元気になることを頑張る。それぞれに約束し、そのためにこの一ヶ月協力し合ってきた。

「ちゃんと晴人に言うんやぞ」
「うん」
「大丈夫。晴人はお前を愛してるんやからな」

言ってしまった後に、何だか虚しくなって。嬉しそな千彩の「ありがとう!」の言葉を、智人はブクブクとお湯に沈みながら受け取った。
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