Secret Lover's Night 【連載版】
タオルを被って出て来た智人に、晴人に髪を乾かしてもらってご機嫌な千彩がグラスに注いだオレンジジュースを持って駆け寄った。そして隣に並ぶと、乾杯!とグラスを鳴らす。

風呂上がりにこうしてオレンジジュースを飲むことが、二人の日課となっていた。

「すっぱー。俺もう要らん」
「ダメ!ちゃんと全部飲んで」
「仲良しやな、お前ら」
「うん!」

こういった類のイヤミが千彩に通じないことはわかっている。だけれど、こうして仲の良さを見せつけられては、恋人のはずの晴人としてはイヤミの一つや二つは言いたくなる。

「おいで、ちぃ」
「ん?」
「こっちおいで」

風呂での件を千彩にキツく問い質すわけにもいかず、晴人としては苛立ちを噛み殺している状態なわけで。そんな状態で見せつけられては堪らない。

もう三十路も手前とは言え、千彩のこととなると冷静さを欠いてしまう晴人。自分を崩さないようにするためには、不安要素はなるべく自分の手で取り除かなければならない。

不思議そうに首を傾げながらソファに近付く千彩は、やはりそんな大人の事情など微塵も理解していなくて。あっ!と声を上げて立ち止まると、くるりと向きを変えてキッチンへと姿を消してしまった。

「ちぃ?」
「ともとー、プリン食べていい?」
「あかーん」
「なんでー?」
「お前メシまだやろ。食ってから」
「えー!」
「言うとくけど、ちゃんと全部食わなプリン無しやからな」
「はーい」

唇を尖らせてキッチンから出てきた千彩の頬を抓んで引くと、智人はそれを上下に動かして無言のまま千彩を叱った。

「いひゃい」
「だったらそんな顔すんな」
「だってー」
「だって禁止」
「むぅ」

俺の彼女に何をする!そう言いたいのはやまやまなのだけれど、ここで声を上げてしまってはまた千彩を怖がらせかねない。

それに、風呂の件も含めて晴人には智人に言いたいことがあり過ぎた。
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