Secret Lover's Night 【連載版】
一言放ってしまえば止まらなくなる。いくら冷静さを欠いた晴人とて学習するのだ。

「ほれ、晴人んとこ行ってこい」
「お腹すいたー」
「はいはい。はよ行け」
「うーん…」

それを察して智人は晴人の元へと促すのだけれど、晴人から再び不穏な空気を感じた千彩は、呼ばれても尚そこへ行くことを渋ってしまって。それが余計に晴人の苛立ちを助長させるのだけれど、当の本人は全くそんなことはわかっていなかった。

「ちぃ」
「んー」
「行かんか」
「んー」

とうとう千彩は智人の背に隠れペタリとひっ付いてしまい、配膳しようと料理を運んで来た母がそれを見て「あらあら」と洩らした。

「じゃあちーちゃん、ママのお手伝いしてくれる?」
「うん!」
「ご飯にするから、悠真君呼んで来てちょうだい」
「ぱぱは?」
「パパは今日遅くなるって。せやから皆でご飯済ましてしまいましょ」
「はーい!」

手伝いをさせてもらえることが嬉しくて、千彩はご機嫌に二階へと上がって行く。残るは、ソファに座ったままじとりと弟を睨む兄と、その視線にうんざりという顔をしてダイニングテーブルに頬杖をつく弟。

まったくこの兄弟は…と、母はため息を呑み込んで夕食の準備を急いだ。

「なぁ」
「んー?」
「まさか一緒に寝てるとか言わんよな?」
「あー…アイツの具合が悪い時はそこで一緒に寝てる」

大きなうさぎが置かれた和室を指すと、智人はバツが悪そうにくしゃくしゃとタオルで髪を拭いた。

「あれ、俺の彼女なんやけど」
「わかっとるわ」
「その辺ちょっと気ぃつけろよ」
「しゃあないやろ。アイツは俺しかあかんのやから」

言われてしまって俯く兄と、言ってしまって俯く弟。これをどう和解させるべきか。テーブルに料理を並べながら、母は思案する。

「ケンカはやめてね?」
「わかってる」
「突っかかってくんのはお兄や。俺は別に悪いことしてへん」
「智人、お兄ちゃんの気持ちも考えなさい」
「嫌なこった。千彩の面倒見てんのは俺や。変に首突っ込んでくんな」
「せやから俺が引き取る言うとるやろ!」

あーあ、始まってしまった。とため息を吐いた母は、扉の向こうに見えた影にハッと息を呑んだ。
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