Secret Lover's Night 【連載版】
「やめなさい!ちーちゃん下りてきたよ!」

母の言葉に、男二人はピタリと言い争いを止めた。そして、強張った表情を整え、何事もなかったかのように視線を外して黙り込む。

「ママー、ゆーま寝てて起きない」
「あらあら。ほんなら三人で食べなさい」
「ママは?」
「ママは悠真君と食べるわ。どうせ泊まるんでしょ?」
「あー、何かそんなこと言うてたな」
「ゆーまお泊り?じゃあ今日も皆で一緒に寝る?」
「あほか。お前は晴人と寝ろ」
「えー!」

不満げに膨れる千彩をコツンと小突き、智人はパチンと手を合わせた。

「いただきます」
「はいどうぞ」
「ちさも!」

当然のように智人の隣に座る千彩に晴人は眉根を寄せるけれど、千彩はそれに全く気付かず、気付いている智人は気付かないフリをして皿に盛られたえびフライを口に押し込んだ。

「はる、食べないの?」
「ん?食べるよ」
「一緒に食べよ!」

ニッと笑顔を向けられ、晴人は嫉妬心を押し殺して渋々立ち上がる。

けれど、自分の席は二人の向かいなわけで。以前までならば、自分が帰って来たら千彩は自分の傍を離れなかった。それを智人に奪われたような気がしてならない。

「いただきまーす!」
「…いただきます」

目の前の二人は、仲良くおかずを分け合ったり感想を述べ合ったりと、晴人の入る隙間は無くて。居たたまれない思いで黙々と食事を口に運ぶ晴人に、不意に智人が思い立ったかのように話を振った。

「お兄、千彩に帰って来い言うたんやってな」
「は?おぉ」
「ちさ帰らないって言ったよ?」
「せやな。帰られへん理由は言うたんか?」
「まだ」
「さっさと言わんか。せやからいつまでもお兄の機嫌が悪いんやろ」
「そうなん?」

えびフライを口に銜えながら首を傾げる千彩に、両手を前に出して振りながら否定をすると、晴人はじろりと智人を見た。
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