Secret Lover's Night 【連載版】
「嫌やったら別れたらええやん!」
「何で別れなあかんねん」
「うち置いて恵介と東京行くくせに!」
「誰が置いてく言うてん。一緒に行ったええやろが」
「うちにはあんたらみたいな才能ないもん!東京行ったって仕事ないもん!」
「メシくらい俺が食わしたるやろ」
「簡単に言うな!あほ晴人!」

そう言って泣き出した玲子の腕を引き、ギュッと抱き締める晴人。


何をしてるんだ、この人達は。


まるで自分の知らない世界を見ているようで、智人は瞬きをすることさえ躊躇った。瞳の奥に焼きつくのは、恋人同士にしか見えない兄と玲子の姿。

けれど、それを認めたくはなかった。

「一緒に行こうや、東京」
「浮気するような男とは行かん」
「まだ言うか。ほな、お前がこっち残るんやったら、あっちで浮気するわ」
「それはもっと嫌や!」
「だったら付いて来い」

まるで結婚でもしそうな勢いだな。と、完全に世界を切り離してしまった智人は、シラケた思考でそう思った。

そして、そのシラケた思考が漸く答えを導き出した時、胸の奥から込み上げるものを抑え付けるために必死の思いで笑い声を上げた。


「あははっ。何や。付き合うとったんか」


震えてはいなかっただろうか。
上ずってはいなかっただろうか。

精一杯の笑い声でその場の空気をぶち壊した智人は、くるりと二人に背を向けて後ろ手に大きく手を振った。
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