Secret Lover's Night 【連載版】
少女、脱走
陽の落ちた街を、恵介は大声を上げながら走る。
このままでは戻れない。何か少しでも手掛かりを掴んでから。
そんな思いと共にお弁当箱をギュッと握り直し、再び大声で千彩の名前を呼ぼうとした時だった。
「あっ…ぶな!どこ見てんねん!」
目の前で急停車した黒塗りの高級車に、恵介は溜まった不安を怒りに変えてぶつけた。けれどその怒りも、ゆっくりと下がった窓から見えた顔に驚きに代わる。
「吉村さんっ!?」
「やっぱり三倉さんでしたか。すんません。お怪我は?」
窓どころか後部座席の扉を開き、スーツ姿の吉村が姿を現す。乗っていたのが吉村で良かった…と、臆病者の恵介は心底思う。これが別の人物だったならば、今度は恵介が連れ去られることになっていただろう。
「吉村さん!ちーちゃんがっ!」
たまたま仕事で東京に来ていて、たまたまこの道を通りがかっただけの吉村。そんなこととはつゆ知らず、恵介は千彩の残した唯一の手がかりを吉村に押し付けながら必死に訴えた。
「ちーちゃんがっ…誘拐っ…!」
「はい?」
誘拐、千彩、恵介。
吉村の中では、それが上手く噛み合わなくて。んん?と眉根を寄せて首を傾げる吉村の肩を掴み、恵介は再び訴えた。
「ちーちゃんがおらんようなったんです!誘拐されたかもしれんのです!」
「誘拐?ちー坊が?」
「誘拐!」
それは一大事だ!と、漸く点と点が繋がった吉村は、車の中に恵介を引っ張り込んで助手席で控える男に向かって低い声を押し出した。
「今日の仕事はキャンセルや」
「はぃ!?」
「俺がキャンセルや言うとるんや」
「は・・・はぁ」
あまりの迫力に、恵介までもビシッと姿勢を正して吉村を見た。
「三倉さん、取り敢えずハルさんのマンションまで行きましょか」
「あっ…はい」
「出せ。住所は…」
晴人のマンションの住所を告げ、吉村はあっさりと仕事をキャンセルして千彩の捜索に切り替えた。
「三倉さん、いったいどうゆうことでっか?」
真っ直ぐに自分を見つめる吉村の目に、恵介はゴクリと息を呑む。どうにか目を逸らしたいのだけれど、そうはさせてもらえなさそうで。膝の上でギュッと拳を握り、重い口を開いた。
「今日は晴人が朝から仕事で…ちーちゃんは家で留守番やったんです」
「誰が誘拐したんでっか?うちの娘を」
「それは…」
わからない。いや、誘拐されたかどうかも定かではないのだ。千彩のことだから、どこかで迷子になって泣いているかもしれない。それはそれで一大事なのだけれど、恵介にはどうも嫌な予感がしてならなかった。
このままでは戻れない。何か少しでも手掛かりを掴んでから。
そんな思いと共にお弁当箱をギュッと握り直し、再び大声で千彩の名前を呼ぼうとした時だった。
「あっ…ぶな!どこ見てんねん!」
目の前で急停車した黒塗りの高級車に、恵介は溜まった不安を怒りに変えてぶつけた。けれどその怒りも、ゆっくりと下がった窓から見えた顔に驚きに代わる。
「吉村さんっ!?」
「やっぱり三倉さんでしたか。すんません。お怪我は?」
窓どころか後部座席の扉を開き、スーツ姿の吉村が姿を現す。乗っていたのが吉村で良かった…と、臆病者の恵介は心底思う。これが別の人物だったならば、今度は恵介が連れ去られることになっていただろう。
「吉村さん!ちーちゃんがっ!」
たまたま仕事で東京に来ていて、たまたまこの道を通りがかっただけの吉村。そんなこととはつゆ知らず、恵介は千彩の残した唯一の手がかりを吉村に押し付けながら必死に訴えた。
「ちーちゃんがっ…誘拐っ…!」
「はい?」
誘拐、千彩、恵介。
吉村の中では、それが上手く噛み合わなくて。んん?と眉根を寄せて首を傾げる吉村の肩を掴み、恵介は再び訴えた。
「ちーちゃんがおらんようなったんです!誘拐されたかもしれんのです!」
「誘拐?ちー坊が?」
「誘拐!」
それは一大事だ!と、漸く点と点が繋がった吉村は、車の中に恵介を引っ張り込んで助手席で控える男に向かって低い声を押し出した。
「今日の仕事はキャンセルや」
「はぃ!?」
「俺がキャンセルや言うとるんや」
「は・・・はぁ」
あまりの迫力に、恵介までもビシッと姿勢を正して吉村を見た。
「三倉さん、取り敢えずハルさんのマンションまで行きましょか」
「あっ…はい」
「出せ。住所は…」
晴人のマンションの住所を告げ、吉村はあっさりと仕事をキャンセルして千彩の捜索に切り替えた。
「三倉さん、いったいどうゆうことでっか?」
真っ直ぐに自分を見つめる吉村の目に、恵介はゴクリと息を呑む。どうにか目を逸らしたいのだけれど、そうはさせてもらえなさそうで。膝の上でギュッと拳を握り、重い口を開いた。
「今日は晴人が朝から仕事で…ちーちゃんは家で留守番やったんです」
「誰が誘拐したんでっか?うちの娘を」
「それは…」
わからない。いや、誘拐されたかどうかも定かではないのだ。千彩のことだから、どこかで迷子になって泣いているかもしれない。それはそれで一大事なのだけれど、恵介にはどうも嫌な予感がしてならなかった。