Secret Lover's Night 【連載版】
「え?」
「え?って。俺じゃ不満ですか?」
「いやいや、とんでもない!何かわかったんでっか?」
「はい、実は…」

カチカチと携帯を操作しながら、智人はメールを読み上げる。

「恵介君の話やと、どうも近所の公園から連れて行かれたみたいですね。千彩が家事を全部終えるのが昼前やとしたら…だいたい11時から14時くらいの間のことやと思います。その時間を中心に、あの辺りの動きを調べてみたら…どうでしょう?」
「あの状況でそないなこと考えとったんでっか」
「まぁ、俺は晴人と違って冷静なんで」

クイッと右眉だけを器用に上げて得意げな表情をする智人は、そんな時の晴人とよく似ていて。さすが兄弟…と思いながら、吉村は表情を引き締めてスーツの集団を見下ろした。

「ええか、お前ら。もっぺんきっちり洗い直してこい!絶対ちー坊見つけてくるんや!わかったな!」
「はい!」


兄貴の命令は絶対。


まるでそう言わんばかりに揃った声に、智人は思わず噴き出した。

「カッコイイですね」
「いやいや。そんな風に言うてもらえるような仕事とちゃいます」
「んー。仕事どうこうより、吉村さんが。信頼されてるって言うか、慕われてるって言うか。何かそんな感じがします」
「まぁ…俺の家族ですから」

吉村自身、親がいないわけではない。一人息子でそれなりに愛情を注いでもらって生きてきた。

だからこそ、ここで生きていこうと決めた。自分が当たり前に得られたモノを得られなかった仲間に、家族を作ってやりたい。そう思ったから。

「晴人と似た感覚なんですかね」
「ハルさんと?」
「あいつ、言うてました。千彩に家族を作ってやりたいって。何か似てるなぁって」
「んー…そうなんかもしれませんね。まぁ、俺の場合はハルさんみたいに立派なもんやないですけど」

あははっと笑う吉村の横顔は、とても誇らしげで。

悪い人じゃない。
それどころか、真っ直ぐで真面目で、情に厚い人だ。千彩とよく似ている。

そんなことを思いながら、智人は俯いて笑った。
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