Secret Lover's Night 【連載版】
大きなスーツケースを引いて来た恵介に、待ったをかけたのは俯いていたはずの晴人で。うぅんと顔を顰め、その手からスーツケースを奪い取る。

「何ヶ月滞在すんねん」
「少ないくらいやで」
「洗濯機くらいあるわ」
「同じもんばっかやったらちーちゃんが可哀想やん」
「そんなこと気にせんわ、あいつは」

オシャレだの何だの、千彩が気にするはずはない。千彩が興味を持つのは、アニメと食べ物だけだ。そう言い切る晴人に、恵介は呆れたように大きく息を吐きながら緩く首を振った。

「わかってないなぁ。ちーちゃんだって女の子やで」
「何がわかってへんねん」
「女ゴコロ」

お前が言うか。そうか、とうとうお前にまで言われるようになったか。そう項垂れる晴人は、少し…ほんの少しだけ落ち着きを取り戻していた。

やはり、恵介が居るのと居ないのでは全く違う。それを改めて実感したメーシーは、遠慮無く、それでいてごくごく自然に二人の間に割って入った。

「幸せボケしちゃってるからね、この人」
「ボケてへんわ」
「どうだか」

クスッと笑うメーシーに、晴人も釣られて笑顔を見せる。あぁ、やっと笑った。それが恵介には嬉しくて。バシバシと晴人の背中を叩きニッと笑うと、そのままガバッと抱きついて大きく息を吸い込んだ。


「大丈夫や。なーんも心配要らん」


贈られた魔法の呪文に、晴人の心から少しずつ不安が消えていく。いいコンビだよ。と、そんな二人を見ながらメーシーは思った。
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