Secret Lover's Night 【連載版】
不意に口を塞がれ、千彩は慌てて逃げ出そうともがいた。けれど、その体は後ろからしっかりと拘束されていて。捕まった。もう帰れない。そんな思いが、千彩の涙の量を増やす。


「ちーちゃん」


名を呼ばれ、動きをピタリと止める。そして考える。この声、この匂いには覚えがある、と。

「じっと、静かにして。もう大丈夫やから」

恐る恐る振り返っても、街灯の光ばかりが眩しくて。確認するためにゆっくりと顔を近付けると、暗闇の中で笑顔が見えた。

「ゆーま!」
「あっ、こら。シー!」

再び口を塞がれ、モゴモゴとしか音を紡げなくなった千彩。そんな千彩を暗闇に引っ張り込み、悠真はギュッと抱き締めた。

「良かった、無事で」
「ゆーま、ここで何してるん?」
「ちーちゃんのこと迎えに来てん」
「何でちさがここにいるってわかったん?ちさ、お家に帰れなくて困ってたのに」
「ん?俺も、ヒーローやから」

優しく笑う悠真を相手に、千彩が不信感や細かな疑問など抱くはずがない。千彩なのだ。千彩だからこそ。

「さぁ、帰ろか。みーんな心配してるわ」
「うん!」

手を引かれ、長く伸びる影を連れて二人は住宅街を歩く。漸く帰れる!と安心してご機嫌な千彩と、そんな千彩を見ながらやれやれ…と携帯片手に苦笑いをする悠真。

これからが大変なのに。と、無邪気な千彩の手をギュッと握り直し悠真は目的の人物にコールした。
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