Secret Lover's Night 【連載版】
「姫をどうするか、じゃない。俺達がどうしてあげるか、だよ」


柔らかな声音の中にも、格別の威圧感を含ませる。それがこの男で。隣の部屋から扉にペタリと耳を寄せていたマリも、その恐ろしさに身震いした。

「もう…メーシーが怒ってるじゃない。ダメなsisterね」

お腹をゆっくりと擦りながら、マリは苦笑いだ。そして、お腹の中からそれを聞いていた愛斗も。勿論、生まれてきた後の彼にはそんな頃の記憶は無いけれど。

「麻理子、ちょっとこっちに来て」
「はーい」

漸く自分も参加させてもらえる。マリにはそれが嬉しくて。スッと扉を開いていそいそとリビングへ行くと、相変わらず暗い表情のまま晴人が俯いているのが見えた。

「まだそんな顔してるの?もうすぐ帰ってくるんでしょ?だったらもういいじゃない」

暗い男ねー。と言うマリにソファを譲り、恵介がキッチンへ立った。

「コーヒー淹れるわ。マリちゃんジュースでええ?」
「thank you」

お気楽な奴らめ!そう悪態をついてしまいたいのはやまやまなのだけれど、じっと自分を見据えたまま視線を動かそうとしないメーシーを前にはそうもいかなくて。無理やり言葉を呑み込み、晴人は立ち上がってカウンターに置いたシガレットケースに手を伸ばした。

「晴人!マリちゃん妊娠中やで!」
「別に構わないわ。ハルの家なんだから好きに吸いなさいよ」
「あー…おぉ」

普段ならば、カウンターチェアに座って火を点ける。けれど、そう言われてしまえばそれもし難くなると言うもので。そのままそれを手にバルコニーへと移動し、晴人は夜空を見上げた。

「俺にも一本」
「おぉ。どうぞ」

やはり追って来たか。と、差し出しながら苦笑いだ。

こんな時のメーシーは、誰よりもしつこい。晴人はそれをよく知っている。

「洗濯物、取り込まなくていいの?」
「んー…せやな」

千彩がここへ戻ってから、家事全般は千彩の仕事で。料理だけは一緒にすると約束したからそうしているけれど、他のことに手を付けたら怒るのだ。ちさのお仕事なのに!と。
< 313 / 386 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop