Secret Lover's Night 【連載版】
悠真から渡された地図を片手に、晴人は住宅街を歩いた。
そこを左に曲って、すぐに右。
道順を思い描きながら角を曲がると見えた、一際大きな家。いや、屋敷。門の前には、黒塗りの高級車が一台停まっていた。
「いや…まさかな」
こんな時の勘は鋭い方だ。恐る恐る中を覗くとゆっくりと窓が下がり、ビシッとスーツでキメた男が怪訝に眉を寄せた。
「どちらさんでっか」
「あー…やっぱり?はははっ」
聞き慣れた関西弁に、もう笑うしかない。仲間達に千彩を任せ仕事前に話をつけようと考えたのは、どうやら義理の父も同じだったらしい。
頼み込まなくとも、お節介な悠真は自ら率先して情報を提供してくれたことだろう。睨み付ける男にペコリと頭を下げ、晴人はにっこりと笑顔を作った。
「千彩さんの婚約者の晴人と申します」
「はぁ?」
本人は丁寧に名乗ったつもりだった。けれど、男にそれは通じなかった。だったらどう言えと…?と軽く空を仰ぎ、ふと思い出す。
「ちー坊の婚約者です。吉村さん、中ですか?」
「え!?ちー坊の!そりゃえらいすんません!兄貴は中にカタつけに行ってますわ!」
「そうですか。ありがとうございます」
悪い人ではないにだろうけれど、出来ればあまり深入りはしたくない。きっと話が長くなる。
そう思い、晴人はさっさとその場を離れてインターフォンを押した。
「はい」
「すみません。昨日こちらでお世話になりました、三木千彩の家の者ですが」
「あっ…」
「妻が随分とお世話になったそうで。一言お礼を」
存分に嫌味を込めてそう言った晴人の前に一人の男が現れたのは、それから数十秒後のことだった。
「お待ちしておりました、三木様。私、司馬家使用人の時雨と申します」
「どうも」
「ご案内いたします」
「そりゃどうもご丁寧に」
トゲトゲしい晴人の言葉にも眉一つ動かさず、時雨はただ淡々と使用人としての職務をこなす。
大きく重い扉を開き、長い廊下を先導し、また大きな扉の前に辿り着く。その間、晴人に何を言われても無言を貫き通した。答えはここで。そんな思いを込め、広間の扉を開く。
そこを左に曲って、すぐに右。
道順を思い描きながら角を曲がると見えた、一際大きな家。いや、屋敷。門の前には、黒塗りの高級車が一台停まっていた。
「いや…まさかな」
こんな時の勘は鋭い方だ。恐る恐る中を覗くとゆっくりと窓が下がり、ビシッとスーツでキメた男が怪訝に眉を寄せた。
「どちらさんでっか」
「あー…やっぱり?はははっ」
聞き慣れた関西弁に、もう笑うしかない。仲間達に千彩を任せ仕事前に話をつけようと考えたのは、どうやら義理の父も同じだったらしい。
頼み込まなくとも、お節介な悠真は自ら率先して情報を提供してくれたことだろう。睨み付ける男にペコリと頭を下げ、晴人はにっこりと笑顔を作った。
「千彩さんの婚約者の晴人と申します」
「はぁ?」
本人は丁寧に名乗ったつもりだった。けれど、男にそれは通じなかった。だったらどう言えと…?と軽く空を仰ぎ、ふと思い出す。
「ちー坊の婚約者です。吉村さん、中ですか?」
「え!?ちー坊の!そりゃえらいすんません!兄貴は中にカタつけに行ってますわ!」
「そうですか。ありがとうございます」
悪い人ではないにだろうけれど、出来ればあまり深入りはしたくない。きっと話が長くなる。
そう思い、晴人はさっさとその場を離れてインターフォンを押した。
「はい」
「すみません。昨日こちらでお世話になりました、三木千彩の家の者ですが」
「あっ…」
「妻が随分とお世話になったそうで。一言お礼を」
存分に嫌味を込めてそう言った晴人の前に一人の男が現れたのは、それから数十秒後のことだった。
「お待ちしておりました、三木様。私、司馬家使用人の時雨と申します」
「どうも」
「ご案内いたします」
「そりゃどうもご丁寧に」
トゲトゲしい晴人の言葉にも眉一つ動かさず、時雨はただ淡々と使用人としての職務をこなす。
大きく重い扉を開き、長い廊下を先導し、また大きな扉の前に辿り着く。その間、晴人に何を言われても無言を貫き通した。答えはここで。そんな思いを込め、広間の扉を開く。