Secret Lover's Night 【連載版】
「こちらへどうぞ」
「まーったく聞いてへんね、ひとの話」
「えっ!?ハルさん!?」
「どうも。お義父さん」

突然の晴人の登場に驚く吉村と、そんな吉村にヒラヒラと手を振りながら時雨をじっと見上げる晴人。そんなことは気にせず、渚は立ち上がってにっこりと微笑んだ。

「初めまして。千彩ちゃんの…ご主人?」
「あんた…涼しい顔してご主人?とか言うとるけど、目の前の人大変な人やで。しかも、千彩ちゃんのお父さん」
「知ってるよ。末広組の吉村さんでしょ?ほら、名刺もらった」

随分と世間知らずな誘拐犯だ。と、広間をぐるりと見渡しながら晴人は思う。

さて、どうしてやろうか。
事と次第によったら、ただでは済ませられない。

そう思いながら、ゆっくりと歩みを進める。

「ほな、俺も名刺渡しましょかね」
「いただけるならぜひ」
「どうぞ。JAGでフォトアーティストやってます、ハルです。昨日こちらでお世話になった千彩の夫です」
「結婚してたなんて計算外だったな」

差し出された名刺を受け取り、渚はあははっと笑って腰掛けた。そして、晴人にも腰掛けるように促す。

「どうぞ」
「こりゃどうも」

チラリと吉村を見ると、その表情はどうにも複雑そうで。もしかして何か大変なことでも…と、晴人は不安になる。

けれど、それはすぐさま否定された。例えばもし、目の前でメーシーよろしく胡散臭い笑みを浮かべるこの男が千彩に何かとんでもないことをしていたのだとしたら、まずこうして座っていられることはないだろう。

そう思い、吉村の思いを探る。

「何か…困り事でも?」
「え?」
「困ったなぁ…って顔してますけど」
「えぇ、まぁ」

くしゃくしゃと頭を掻きながら、吉村は苦笑いで。向けられた視線は、「どうしましょう…」と言っているように見えた。

「コーヒーでも如何ですか?」
「いや、結構。長居するつもりはないんで」
「あらら。残念」

両手を広げ、肩を竦める渚。メーシーやマリのそんな仕草を見慣れているせいか、晴人がそれに苛立つことはなかった。

それはそれで問題な気もするけれど、今晴人の目の前にある問題はそんな小さなものではない。
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