Secret Lover's Night 【連載版】
「どうしました?そんな怖い顔して」
「そりゃ、嫁さん誘拐されたら怖い顔にもなりますよ、オニーサン」

おかげで色々あったし。と、出かかった言葉を奥に押しやり、晴人は渚を見据えた。

そんな晴人をふっと鼻で笑う渚は、どうやらご機嫌のようで。変わらず無表情の時雨がどこからか運んで来たバラの花束を受け取り、それをずいっと晴人の前に差し出して笑ってみせた。

「これ、千彩ちゃんに」
「はぁ?」
「昨日来た時、随分気に入ってたみたいだから。誰だったかな…あぁ、そうだ、マリちゃん。マリちゃんみたいだって」
「マリねぇ…」

渡された花束を眺め、晴人は考える。

棘?いや、千彩のことだからそんな失礼なことは思うまい。だったら何だ。真紅の大ぶりな花を咲かせるバラ。確かに、華やかさはマリも負けてはいない。

まぁ、それでいいか。と、適当に結論付け、再び渚に視線を戻す。

「うちの嫁さんを誘拐した理由は?」
「マリちゃんって、このモデルのこと?綺麗な人だよね。一度会ってみたい。今度はこの人にしようかな」
「いや、やめとき。それも人妻や。旦那に殺されても知らんで」

あいつならやりかねない。しかも、いつものようにふふっと軽く笑って。そう大きく頷いた後、すっかり自分の質問がスルーされてしまったことに気付いた晴人。しかも質問したはずの相手は、どこから持ち出したのかマリの写真集をペラペラと捲り始めていた。

「おいおい、オニーサン」
「渚だよ。因みに、18歳」

若っ!と思わず声に出してしまい、晴人は慌てて口を噤んだ。あぁ、もうっ!やり辛い!と、言葉の代わりに大きくため息を吐く。

「死んだ妹にね、ソックリなんだ。生きてたら14歳」
「妹?」

今度は写真立てが一つ運ばれて来た。用意周到過ぎて、何だか気持ちが悪いくらいだ。

「結婚してるってことは、最低でも16ってことだよね。だったら妹より少し年上だな」
「千彩?あいつは18や」
「わっ。僕と同い年なんだ。見えないね。中学生くらいかと思った。ご主人、ロリコン?」

あぁ、それよく言われるんです。などと笑えるはずがない。グッと眉根を寄せた晴人をからかうように渚は大きく声を上げて笑い、バンッとテーブルに写真集を叩きつけた。
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