Secret Lover's Night 【連載版】
「僕に譲ってくれない?大事にするからさ」
何だ、これは。これじゃまるで昨日の兄弟ゲンカの続きじゃないか。言われている晴人はもとより、黙って座っていた吉村も思う。
「可愛かったなぁ。寝顔が特に」
「お前、千彩に何かしたんか」
挑発だとわかっていても、可能性が無いとは言い切れないだけに抑えきれない。そんなところで。身を乗り出して渚の胸倉を掴もうと手を伸ばした晴人は、吉村に腕をグッと掴まれどうにか留まった。
「あれ?確かめたんじゃないの?家に戻ったのに」
「質問に答えろ」
「泣いてたよ。はるぅって」
「お前っ!」
もう許せない!そう言って立ち上がった晴人を、吉村が必死で抑える。落ち着いて、落ち着いて!と。
「落ち着けませんよ、これ。手ぇ出したんやったら、あぁそうですかで引き下がれませんよ!」
「オトシマエつけさせるんは、俺の仕事ですわ」
そう言った吉村の声は、低く地を這うような声で。あぁ、初めて会った日にその声聞いた。と、頭のどこかは冷静だった。
「司馬のボンボンでっか」
「あぁ、知ってたんだ」
「ええご趣味や言うてね、有名でしたわ」
「…バカにしてんの?」
「とんでもない。墨入れもしとらんガキとやり合うほど、下っ端やないんでね」
ギンッと眼を光らせた吉村は、明らかに仕事モードで。そんな吉村を見ていると、晴人も怒りを収めないわけにはいかなくなってくる。口を挟むな。言われずともそれを察した。
「千彩ちゃんが言ってたよ。千彩のパパは次のボスなんだからーって」
「せやったら何でっか?」
「別に。煮るなり焼くなり、警察に突き出すなり好きにすれば」
「そんな開き直りがこの世界に通用するとでも思うとるんでっか?」
「じゃあどうするの?小指落とす?」
乾いた笑い声と、バンッとテーブルを叩く音が混じり合う。あぁ、同じ裏社会の人間か。少し遅れて判断した晴人は、背もたれに体を預けて吉村を見守る。
その世界にはその世界のルールがある。知らない自分が口を出すのはナンセンスだ。それに、口を挟んで何だかんだと言えるほどの知識も無い、と。
「どないしましょか。港にでも沈めまっか」
「別にいいよ。どうせ誰も残っちゃいないんだ。家が無くなったって誰も困りゃしないよ」
「旦那様…」
「そうだ。こいつら纏めて雇ってやってよ。この家が無くなったら、こいつらが困るからさ」
「言いたいことはそれだけか?」
「え?」
軽快だった渚の言葉が止まる。殴ったのだと晴人が認識したのは、渚の体が床に叩きつけられてからだった。
何だ、これは。これじゃまるで昨日の兄弟ゲンカの続きじゃないか。言われている晴人はもとより、黙って座っていた吉村も思う。
「可愛かったなぁ。寝顔が特に」
「お前、千彩に何かしたんか」
挑発だとわかっていても、可能性が無いとは言い切れないだけに抑えきれない。そんなところで。身を乗り出して渚の胸倉を掴もうと手を伸ばした晴人は、吉村に腕をグッと掴まれどうにか留まった。
「あれ?確かめたんじゃないの?家に戻ったのに」
「質問に答えろ」
「泣いてたよ。はるぅって」
「お前っ!」
もう許せない!そう言って立ち上がった晴人を、吉村が必死で抑える。落ち着いて、落ち着いて!と。
「落ち着けませんよ、これ。手ぇ出したんやったら、あぁそうですかで引き下がれませんよ!」
「オトシマエつけさせるんは、俺の仕事ですわ」
そう言った吉村の声は、低く地を這うような声で。あぁ、初めて会った日にその声聞いた。と、頭のどこかは冷静だった。
「司馬のボンボンでっか」
「あぁ、知ってたんだ」
「ええご趣味や言うてね、有名でしたわ」
「…バカにしてんの?」
「とんでもない。墨入れもしとらんガキとやり合うほど、下っ端やないんでね」
ギンッと眼を光らせた吉村は、明らかに仕事モードで。そんな吉村を見ていると、晴人も怒りを収めないわけにはいかなくなってくる。口を挟むな。言われずともそれを察した。
「千彩ちゃんが言ってたよ。千彩のパパは次のボスなんだからーって」
「せやったら何でっか?」
「別に。煮るなり焼くなり、警察に突き出すなり好きにすれば」
「そんな開き直りがこの世界に通用するとでも思うとるんでっか?」
「じゃあどうするの?小指落とす?」
乾いた笑い声と、バンッとテーブルを叩く音が混じり合う。あぁ、同じ裏社会の人間か。少し遅れて判断した晴人は、背もたれに体を預けて吉村を見守る。
その世界にはその世界のルールがある。知らない自分が口を出すのはナンセンスだ。それに、口を挟んで何だかんだと言えるほどの知識も無い、と。
「どないしましょか。港にでも沈めまっか」
「別にいいよ。どうせ誰も残っちゃいないんだ。家が無くなったって誰も困りゃしないよ」
「旦那様…」
「そうだ。こいつら纏めて雇ってやってよ。この家が無くなったら、こいつらが困るからさ」
「言いたいことはそれだけか?」
「え?」
軽快だった渚の言葉が止まる。殴ったのだと晴人が認識したのは、渚の体が床に叩きつけられてからだった。