Secret Lover's Night 【連載版】
マリの後継者だと持て囃されているモデルなのだけれど、晴人にとっては何とも撮りごたえのないモデルだった。

けれど、残念ながら事務所同士の契約がある。だからこうして機嫌を損ねないようにしているだけなのだ。

「あー…ごめんな?レンちゃん。うちの嫁さんが乱暴なことして」
「モデルの顔を叩くなんてサイテー」
「ごめんって。そうゆうの全然わかってない奴やねん。許したって?」

自分に対する態度とはえらく違うじゃないか。と、異議を唱えたのは渚で。晴人の腰にしっかりと腕を回した千彩を無理やり引き剥がし、ギュッと後ろから抱き締めた。

「千彩、冷たくなってる」
「…寒い」
「帰って時雨に温かい飲み物淹れてもらおう。何がいい?ミルク?」
「はる…」

不安げな千彩の目が、チクリと胸に針を刺す。言い訳、謝罪、開き直り。どの選択肢も選んではいけない気がして。ガシガシと後頭部を掻きながらレンから離れ、そっと千彩の手を取って纏わり付く渚の体をドンッと押した。

「俺の女に触るな」
「何だよー。この浮気男」
「犯罪者に言われても痛くも痒くもないな」

ギュッと抱き寄せた体は、随分と体温が下がっていて。借り物のコートを脱がせて自分のダウンを着せると、ジッパーをきっちりと上まで閉めてゆっくりと頭を撫でた。

「帰ろか」
「ちさ…眠い」
「もう遅いからな。明日休みやし、二人でゆっくり寝よ」
「けーちゃんは?明日、けーちゃんもお休みって言ってた。メーシーも」
「たまには二人でゆっくりしようや。おい、ナギ。恵介貸したるから邪魔すんなよ」
「ちぇっ。恵介で我慢するか」

つまらなさそうに唇を尖らせる渚は、千彩と同い年のはずで。それなのに、10以上年上の自分達を呼び捨てにするとは…と、日頃の不満が思わず顔に出た。

「そんな顔してると、千彩に嫌われるよ。まっ、僕はそうなればラッキーだけど」
「千彩が俺を嫌うことなんかあるわけない。コイツは俺がおらな生きてけんのやからな」
「うっぜー」
「何とでも言え」

ベッと舌を出し、横顔に刺さる視線に気付く。あっ、しまった。そう思って笑顔を作ってみたのだけれど、レンの表情は歪んだままだった。
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