Secret Lover's Night 【連載版】
「噂は耳に入ってるけど…MARIが産んだ子は、僕の子だよ」
「…どうだか」
「必要なら、DNA鑑定でもしてこようか?僕以外の男の子供だなんて、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ない」
それもどうだか…と思う晴人なのだけれど、下手に口を挟めば口撃対象は自分へ移ってしまう。それは何が何でも避けたい事態で。勝算が無いわけではないのだけれど、とにかくこの男は何につけても厄介なのだ。
「噂するのは自由だけど、MARIを侮辱することは許さない。僕も、勿論ハルも。だろ?」
「デスネー」
いくら手酷い仕打ちをくらったとは言え、マリは今や友人で。それに、自分が惚れて撮らせてくれと口説き落としたモデルなのだ。それは晴人のフォトアーティスト人生で、後にも先にもマリただ一人だった。
「何なの…何なのよ皆して!MARIなんてあんた達がいなきゃただのオバサンモデルじゃない!」
おいおい。やめとけよ。そう止めるより、メーシーがキレる方がコンマ1秒早かった気がする。
「誰に向かって言ってんだよ。代用品のくせに」
そんな乱暴な言葉をにっこりと笑って吐くものだから、言われている相手も倍ほどの恐怖を感じることだろう。現に目の前のモデルは、口元に手を当てて小さく震えていた。
「メイジ、僕寒いんだけど」
「あれ?居たんだ、ナギ」
「よく言うよ。しっかり人の足踏んで行ったくせに」
「ふふっ。そうだっけ?」
よくやった、渚!と、千彩を横抱きに直しながら心の中で盛大に賛辞を贈る。そろそろ腕も限界なのだ。マリを抱えているのとはわけが違う。
「帰ろうやー、メーシー。ちぃが可哀想や」
「そうだね。ナギ、悪いんだけどこのモデルさん送って行ってあげてくれる?」
「えー。時雨置いてきたんだけど」
「タクシー代くらい恵んでやるよ?」
「要らねーよ。バカにすんな!」
まるでプンッ!とでも言いそうなくらい頬を膨らませた渚は、コートの前ボタンをしっかりと閉めて固まったままのレンの腕を掴んだ。
「帰るよ、オネーサン」
「えっ…」
「オネーサンじゃあいつらには勝てないよ」
どう見ても見た目は高校生。そんな渚に小馬鹿にしたように言われ、レンはグッと表情を歪めた。
「あぁ、言っておくけど…そのガキ、お屋敷住みのお坊ちゃんだから」
「だから…」
「だから何、って?お金なら持ってるよ。顔も頭も悪くない。それで手を打ってよ」
「ひでーの。僕を餌にすんのかよ」
「姫を傷付けた罰だよ。残念ながら、笑って許してあげられるほど俺の心は広くない」
「鬼!悪魔!マリコに言い付けてやるからな!」
「どうぞお好きに。麻理子は俺の女だよ」
ふふんっと自慢げなメーシーに、渚はそれはそれは悔しそうに地団駄を踏んでレンの腕を引っ張った。
「行くよ!強制連行だ!」
「えっ!?ちょっと!」
やれやれ。やっと解決した。と、笑顔のメーシーが振り返る。そして、千彩の頬をぷにっと突いて珍しく眉尻を下げた。
「ごめん。ナギの行動を頭に入れてなかった」
「まー!珍らしいこと。おほほ」
茶化したのは、メーシーへの優しさだ。子供が生まれたばかりなのだ。疲れていて当然。そう言ってやると、ずっしりとした重さを引き受けてくれた。
「あー。重かった」
「大きくなったね、姫」
「横に?あっ!タク停めるわ」
この街には暫く来れないな。などと思いながら、停めたタクシーに乗り込む。千彩を抱えていると、不思議と寒さは感じなかった。それよりも、目覚めてからどう言い訳をしようか。それを考えることで晴人は忙しかったのだ。
「…どうだか」
「必要なら、DNA鑑定でもしてこようか?僕以外の男の子供だなんて、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ない」
それもどうだか…と思う晴人なのだけれど、下手に口を挟めば口撃対象は自分へ移ってしまう。それは何が何でも避けたい事態で。勝算が無いわけではないのだけれど、とにかくこの男は何につけても厄介なのだ。
「噂するのは自由だけど、MARIを侮辱することは許さない。僕も、勿論ハルも。だろ?」
「デスネー」
いくら手酷い仕打ちをくらったとは言え、マリは今や友人で。それに、自分が惚れて撮らせてくれと口説き落としたモデルなのだ。それは晴人のフォトアーティスト人生で、後にも先にもマリただ一人だった。
「何なの…何なのよ皆して!MARIなんてあんた達がいなきゃただのオバサンモデルじゃない!」
おいおい。やめとけよ。そう止めるより、メーシーがキレる方がコンマ1秒早かった気がする。
「誰に向かって言ってんだよ。代用品のくせに」
そんな乱暴な言葉をにっこりと笑って吐くものだから、言われている相手も倍ほどの恐怖を感じることだろう。現に目の前のモデルは、口元に手を当てて小さく震えていた。
「メイジ、僕寒いんだけど」
「あれ?居たんだ、ナギ」
「よく言うよ。しっかり人の足踏んで行ったくせに」
「ふふっ。そうだっけ?」
よくやった、渚!と、千彩を横抱きに直しながら心の中で盛大に賛辞を贈る。そろそろ腕も限界なのだ。マリを抱えているのとはわけが違う。
「帰ろうやー、メーシー。ちぃが可哀想や」
「そうだね。ナギ、悪いんだけどこのモデルさん送って行ってあげてくれる?」
「えー。時雨置いてきたんだけど」
「タクシー代くらい恵んでやるよ?」
「要らねーよ。バカにすんな!」
まるでプンッ!とでも言いそうなくらい頬を膨らませた渚は、コートの前ボタンをしっかりと閉めて固まったままのレンの腕を掴んだ。
「帰るよ、オネーサン」
「えっ…」
「オネーサンじゃあいつらには勝てないよ」
どう見ても見た目は高校生。そんな渚に小馬鹿にしたように言われ、レンはグッと表情を歪めた。
「あぁ、言っておくけど…そのガキ、お屋敷住みのお坊ちゃんだから」
「だから…」
「だから何、って?お金なら持ってるよ。顔も頭も悪くない。それで手を打ってよ」
「ひでーの。僕を餌にすんのかよ」
「姫を傷付けた罰だよ。残念ながら、笑って許してあげられるほど俺の心は広くない」
「鬼!悪魔!マリコに言い付けてやるからな!」
「どうぞお好きに。麻理子は俺の女だよ」
ふふんっと自慢げなメーシーに、渚はそれはそれは悔しそうに地団駄を踏んでレンの腕を引っ張った。
「行くよ!強制連行だ!」
「えっ!?ちょっと!」
やれやれ。やっと解決した。と、笑顔のメーシーが振り返る。そして、千彩の頬をぷにっと突いて珍しく眉尻を下げた。
「ごめん。ナギの行動を頭に入れてなかった」
「まー!珍らしいこと。おほほ」
茶化したのは、メーシーへの優しさだ。子供が生まれたばかりなのだ。疲れていて当然。そう言ってやると、ずっしりとした重さを引き受けてくれた。
「あー。重かった」
「大きくなったね、姫」
「横に?あっ!タク停めるわ」
この街には暫く来れないな。などと思いながら、停めたタクシーに乗り込む。千彩を抱えていると、不思議と寒さは感じなかった。それよりも、目覚めてからどう言い訳をしようか。それを考えることで晴人は忙しかったのだ。