Secret Lover's Night 【連載版】
「飲もか、せーと」

扉の前で待ち構えていた恵介は、缶ビールを片手に不機嫌絶好調で。あぁ。これは真面目に怒っているな。と、二人でゆっくりするはずの休日が潰れる覚悟を決めた。

「誰とどこおったん?」

プシュッと噴き出すビールの返事よりも、恵介の言葉の方が先に耳に届いた気がする。答えずに喉を潤すと、手から冷たい感覚が奪われた。

「誰と、どこにおったんや?」

浮気を問い詰める嫁か。そんな風に茶化せば、真っ直ぐに自分を見つめる親友は何と言うだろうか。わかっていてそうするほど、バカではないつもりでいる。

普段どれだけルーズで鈍感でも、千彩のことに関してだけはそうではない。それを一番よくわかっているのは自分なのだから。

「電話で言うたやろ。レンちゃんとメシ」
「えらい話し込んだんやな」
「んなわけないやろ。メシ食ってバーや」
「それって…」
「いつものコースやんかいって言いたいんやろ?別にそんなつもりなかったんやけどな」

だいたいは、フレンチかイタリアン。マリの時は和食だった気もするけれど、その後の行先は変わらない。馴染みのバーで酒を飲んで、そのままどこかのホテルか女の家へ行く。翌日には、彼女の乗り換えが完了していた。

「女落とすのにあのバー使うのやめろや」
「落とすつもりなんかなかったわ。だいたい、今日のはメーシーがふっかけたんやぞ」

奴のせいでこうなった。そう主張する晴人に、恵介は耳を貸さなかった。

「そんなんどうでもええねん」
「どうでもええってお前なぁ…」
「何でそんなことすんねん」
「何がやねん」

恵介の言いたいことはわかる。わかるからこそ、敢えて口に出してほしくないと願う。


「お前がそんなんするから…そんなんするから玲子が今でも気にしてんねやろ」


願いは…届かなかった。
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