Secret Lover's Night 【連載版】
だんだんと空が夜明けに近付くと共に、覚醒していく晴人の脳。まだ不完全な覚醒だったから。と、言い訳は十分に出来るかもしれない。

『・・・はい。何?こんな時間に』
「・・・」
『もしもし?恵介?』
「・・・俺や」
『は?』
「俺や。晴人や」

受話器越しの、寝惚けた玲子の声。独特のハスキーボイスが、更に低く、重く聞こえた。

「久しぶりやな、玲子」
『あー・・・ドチラサマ?』
「ほぉ。どの口がそんなこと言いよんねん」
『だって…今更…』
「今更、何や。黙って連絡取りやがって」
『あー・・・』

そんなことを責めたいわけではない。けれど、どうしても抑えきれなかった。

「何やねん、お前ら。何年も」
『まぁ・・・あれやな。恵介はヘタレの代表やから』
「まぁ、恵介はヘタレ選手権があったら優勝しそうやからな」
『そうそう!さっすがよぉわかとるやん!』
「話逸らしても無駄やからな」

冷たい晴人の声音に、シンと受話器の向こうが静まり返る。
昔のことを責め立てるつもりはない。もう時効だ。そう思っているつもりではいる。


「何で逃げた。何で何も言わんと俺んとこから逃げたんや」


ただそれだけはハッキリと聞いておきたい。今更でも、何でも構わない。自分勝手でも、何でも。

「いっぺんそっち行くからゆっくり話しよか」
『え・・・?今更?』
「逃げられっぱなしは癪に障る。それに・・・」

ふと過る千彩のふくれっ面。あぁ、早く迎えに行ってやらねば。そう思考を緩めた時だった。


『結婚するから、過去の清算?』


誰から聞いたんだ、そんなこと。

問わずとも、それを伝えるだろう相手の顔はすぐに思い浮かぶ。残念なことに、何人も。

「まぁ、そんなとこやな」
『ホンマ自分勝手やな、はるちゃんは』
「お互い様やろ」

ひとのことは言えないはずだ。

そう一言出してしまえば止まらなくなる気がして。言葉を呑み込むついでに大きく息を吸い、ふぅっとゆっくり吐き出した。

『勝手にかけてきてため息吐かんといてや』
「お前がいらんこと言うからやろ。取り敢えず、来週にでもそっち行くから」
『彼女も…連れて?』
「おぉ」
『ふぅん』

彼女には会いたくない。

そう言いたげな玲子は、それっきり黙り込んだまま。結局晴人が強引に話を進め、来週一日だけ千彩を連れて地元へと帰ることになった。

「智にも言うといて。あと悠真も」
『何でうちが・・・』
「お前の方がよぉ連絡取るんちゃうかと思ってな。ほな、俺仕事行くから」
『あっ・・・はるちゃん』

続けようとされた言葉は聞こえないフリをして、そのまま電話を切って大きく息を吐く。手の中の機械の持ち主は、未だ安らかに夢の中だ。
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