Secret Lover's Night 【連載版】
改札へと続く階段を下りて一番に目に入ったのは、一足先に飛行機で戻った親友の姿だった。

「ちぃ、恵介が迎えに来とるわ」

それを教えてやると、千彩の表情がパァっと晴れる。助かった…と思う反面、多少なりとも苛立つ部分もある。千彩は俺の恋人なのに、と。

「ちーちゃーん!」

大きく手を振る恵介は、人目も気にせず大声で千彩の名を呼んでいて。TPOを考えろよ…と思うものの、それをこの二人に言ったとて無駄なことは百も承知だ。

「けーちゃーん!」

案の定、呼ばれた側の千彩も嬉しそうに手を振って掛けて行く。あーあ。と肩を落とした晴人は、一泊分の荷物が入った旅行鞄を担ぎ直し仕方なく後を追った。

「おかえり」
「おぉ」
「ロータリーに車停めてんねん」
「は?」
「悠真がどうしてもって聞かんかってな」

あははと笑う恵介は、よしよしと千彩の頭を撫でながらそれはもう嬉しそうで。触るな!と言わんばかりに腕を引き、その拍子によろけた千彩を腕に収めた。

「智は?」
「何や、バイトなんやて」
「バイト?バンドは」

智人がギタリストとして所属するバンドは、夏前に夢だったメジャーデビューを果たし、今は大忙しなはずで。それなのにバイト?と、晴人は眉を顰めた。

「まぁ、ええやん。そない難しい顔せんと、車乗ろうや」
「…おぉ」

納得がいかない。無言でそんな空気を醸し出してみても、察してくれるだろう勘の良いメーシーは遥か東の地で。ここに居るのは、空気の読めない親友と、更に空気の読めない恋人。

はぁ…と大きく息を吐くと、晴人は渋々足を進めた。
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