Secret Lover's Night 【連載版】
そこに、カツカツと歩み寄る足音が一つ。


「ねぇ、姫。メイク道具もプレゼントしようか?」


背後から声を掛けられて顔だけを振り返らせると、何やら大きな黒い箱を持った人物がにっこりと笑っている。

女の人みたい…と、撮影前に自分の髪や顔を散々弄り倒したその人物と向かい合った。

「姫?」
「うん。ハル王子のお相手だから姫でしょ?君は」

その言葉に、千彩はうーんと首を傾げる。

晴人が王子と呼ばれるのは納得がいく。あんなに綺麗で、優しいのだから。けれど、自分はとてもではないが姫と呼ばれるような容姿はしていない。

少し考え、千彩はフルフルと首を振った。

「ち…あたしは、お姫様じゃない…です。お姫様はもっと…可愛いから」
「そう?俺にしてみれば君も十分可愛いけどね」

伸ばされた手に、少しだけ千彩が体を強張らせる。それに気付いたメーシーがスッと手を引き、膝に両手をついて千彩の顔を覗き込んだ。

「別に取って食いやしないよ?安心して?」
「あ…はい」
「はははっ。ちーちゃん緊張してんのか?らしないなぁ」
「だって…」

陽気に笑う恵介を振り返り、千彩はぶぅっと頬を膨らせる。そんな姿を見て、メーシーの表情が緩んだ。にっこりと笑い、優しい声で千彩を諭す。

「大丈夫。俺もケイと一緒で王子の友達だから」
「はるの…お友達?」
「そう、お友達」

微笑むメーシーには、晴人とはまた雰囲気の違った美しさがあって。

緩やかにパーマのかかった茶色い髪と、色素の薄い切れ長の瞳がとても美しい。透き通るような白い肌は、女性も羨むほどのきめ細やかさをしていそうだ。

じっと見つめ、千彩はふぅっと恍惚の吐息を漏らした。
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