Secret Lover's Night 【連載版】
「けーちゃん」
色々と思い返しながらカウンターでタバコを吹かしていると、スッと扉が引かれた。眠そうに目を擦った千彩が、ぬいぐるみと手を繋いでペタペタと歩み寄って来る。
「どしたー?喉渇いたか?」
慌てて灰皿にタバコを押し付け立ち上がると、ゆるりと首を縦に振った千彩がペタペタと冷蔵庫に向かって歩き始めた。
「ジュース入れたろか?」
「んーん。自分で出来る」
そりゃそうか。と、小さな納得と共にもう一度腰掛ける。
ぬいぐるみと手を繋いだ千彩の姿は、どう見ても小学生低学年の幼子で。そのお気に入りだろうぬいぐるみをカウンターの隅に置いて両手で少し大きめのグラスを傾ける千彩の姿をまじまじと見つめながら、やはり自分もその気があるかもしれない…と、失礼なことを考えていた。
「ちーちゃん、晴人は?」
「寝てるー。めーしーは?」
「ん?メーシーは明日早いからもう帰ったで」
「そっか。ねぇ、けーちゃん。はる…悲しいの?」
「んー?」
「お酒いっぱい飲んだらね、悲しいことを忘れられるんやって」
「晴人がそう言うてたん?」
「んーん。おにーさま」
「お兄様?」
初めて千彩の口から聞く単語に、恵介は小さく首を傾げる。
お兄様と呼ぶということは、それなりに良い家のお嬢様か何かか?と、カウンター越しの千彩を窺い見る。その視線に気付いた千彩が、不思議そうにコテンと首を傾げて空いたグラスを流しに置いた。
「どうしたん?」
「あぁ、うん。ちーちゃん、ちょっとけーちゃんとお話しよか?」
「けーちゃんと?うん。いいよ」
ぬいぐるみを抱き直し歩み寄って来る千彩をカウンターチェアに座らせ、外しておいた腕時計をチラリと見遣る。
時刻は23時を少し回ったところ。少しだけ…と、頬杖をついて千彩の長い髪を撫でた。
「ちーちゃんのお家は?」
「ここ」
「んー。そうやなくて。ここに来るまではどこにおったん?関西弁喋るから、関西の子やんな?」
「うん。でも、ここに来る前はビルに住んでた」
「ビル?」
「お店の人がここに住みなさいって言ったビル」
そう言えば晴人もそう言っていた。と、「とても人間とは思えない生活」を思い浮かべる。
「真っ暗なビルやったんやろ?」
「うん。電気がつかないからね。お金払ってないからって言われた。電気はつかないけど、ろうそくいっぱいもらったよ」
「どんなお店で働いてたん?」
その言葉に千彩の表情が曇る。ヤバかったか?と、窺い見るしか出来ない恵介は、じっと黙って千彩の言葉を待った。
色々と思い返しながらカウンターでタバコを吹かしていると、スッと扉が引かれた。眠そうに目を擦った千彩が、ぬいぐるみと手を繋いでペタペタと歩み寄って来る。
「どしたー?喉渇いたか?」
慌てて灰皿にタバコを押し付け立ち上がると、ゆるりと首を縦に振った千彩がペタペタと冷蔵庫に向かって歩き始めた。
「ジュース入れたろか?」
「んーん。自分で出来る」
そりゃそうか。と、小さな納得と共にもう一度腰掛ける。
ぬいぐるみと手を繋いだ千彩の姿は、どう見ても小学生低学年の幼子で。そのお気に入りだろうぬいぐるみをカウンターの隅に置いて両手で少し大きめのグラスを傾ける千彩の姿をまじまじと見つめながら、やはり自分もその気があるかもしれない…と、失礼なことを考えていた。
「ちーちゃん、晴人は?」
「寝てるー。めーしーは?」
「ん?メーシーは明日早いからもう帰ったで」
「そっか。ねぇ、けーちゃん。はる…悲しいの?」
「んー?」
「お酒いっぱい飲んだらね、悲しいことを忘れられるんやって」
「晴人がそう言うてたん?」
「んーん。おにーさま」
「お兄様?」
初めて千彩の口から聞く単語に、恵介は小さく首を傾げる。
お兄様と呼ぶということは、それなりに良い家のお嬢様か何かか?と、カウンター越しの千彩を窺い見る。その視線に気付いた千彩が、不思議そうにコテンと首を傾げて空いたグラスを流しに置いた。
「どうしたん?」
「あぁ、うん。ちーちゃん、ちょっとけーちゃんとお話しよか?」
「けーちゃんと?うん。いいよ」
ぬいぐるみを抱き直し歩み寄って来る千彩をカウンターチェアに座らせ、外しておいた腕時計をチラリと見遣る。
時刻は23時を少し回ったところ。少しだけ…と、頬杖をついて千彩の長い髪を撫でた。
「ちーちゃんのお家は?」
「ここ」
「んー。そうやなくて。ここに来るまではどこにおったん?関西弁喋るから、関西の子やんな?」
「うん。でも、ここに来る前はビルに住んでた」
「ビル?」
「お店の人がここに住みなさいって言ったビル」
そう言えば晴人もそう言っていた。と、「とても人間とは思えない生活」を思い浮かべる。
「真っ暗なビルやったんやろ?」
「うん。電気がつかないからね。お金払ってないからって言われた。電気はつかないけど、ろうそくいっぱいもらったよ」
「どんなお店で働いてたん?」
その言葉に千彩の表情が曇る。ヤバかったか?と、窺い見るしか出来ない恵介は、じっと黙って千彩の言葉を待った。