灯火-ともしび-
返事はないということを分かって、あえて声をかけた。


「夏海…さん…。」


すると、小さく動く感触が背中から伝わってきた。


「ん…?」


ふと、スーパーの掲示板に燈祭りの文字を見つける。
今週の日曜日、開催…か。


「あの子…浴衣選んだのよね…。」

「え?」


声はもちろん夏海さんのものだ。
右を振り返るけれど、目は多分…開いてない。


「りゅうま…だかなんだかしらないけど…もうこりごりよ、のろけ…。」


ぷっと笑いが込み上げる。
夏海さんも俺も似たようなものだ。
俺だって何かにつけては流馬からノロケを聞かされる毎日だ。
兄としては…少し切なかったりする。


「…私、浴衣なんかいらないって…言った…じゃない。」

「…夏海さんの…浴衣…?」


ぼんやりとそんな想像をした。
きっと綺麗で、可愛い。


「見たい、なぁ…。」


ポロリと本音が零れた。


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