ドライヴ〜密室の教習車〜
「……文ちゃん、大丈夫? もしあれなら代わろっか?」

 私は、気づいたら自然とそう言っていた。

 すると文乃は、ずいっと右手を私の方に押し出してきた。

「ううん、いーよ。大丈夫。がんばってみる」

「ホント?」

「うん。だってそれに、村上くんが入ってる3時間目は、和紗は篠さんの教習しなきゃいけないもん」

「いや。それは全く義務ではないから」


 1時間目の予鈴が鳴る。
 私と文乃は、教習車が並んでいるエントランスに向かった。

 文乃が無理をしているのは明らかだったが、私が出しゃばることでもない、と思っていた。



 だから、笑顔で手を振って教習車に向かう文乃に、私も笑顔で答えたんだ。
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