ドライヴ〜密室の教習車〜
 茶色の長い巻き髪を揺らし、細身の癖になぜか肉付きの良い腰を揺らし、かかとの高い靴を鳴らしながら私に近づいてくる、この女。
 バッチリとキマったメイクで、妙に愛嬌のある笑顔ができる、この女。

《松山弥生(まつやまやよい)》

 彼女は掃除中にもかかわらず、わざわざ私に朝の挨拶をしに来てくれたのか。
 
 いや、よく見るとなんだか変な笑みを浮かべている。

 弥生がこの笑顔を浮かべる時は何かを企んでいる時だ。
 彼女との今までの付き合いから私はそれが手に取るようにわかった。

 案の定、というか。
 弥生は、雑巾を持ったままの手で私に耳打ちをしてきた。

「くさっ!」

「和紗、今日の3時間目の教習、楽しみにしててねっ」

「……え? 何。どういうこと」

 と、私は弥生の方に顔を向けたが、その瞬間視界を支配した汚い雑巾にたじろぎ、機敏に仰け反った。
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