ドライヴ〜密室の教習車〜
 まるで今まで、気づかなかったような言い方だ。
 いや、彼に限っては《本当に今気づいた》のかもしれないが。

 藤田さんの視線は、篠さんにあった。

「この人は篠敬太郎さん。教習生で、探偵だよ」

 私が紹介すると、藤田さんは「ああ!」と声をあげた。

「あなたが噂の探偵さんですか」
 
 噂だったらしい。

「どうも、はじめまして。篠です」

 篠さんは、藤田さんに会釈をした。

「篠さんは、あの時ちょうど私の教習をうけてたの。文ちゃんを助けてくれるって!」

「本当ですか! よろしく頼みます」

 藤田さんが深々と頭を下げると、篠さんは恐縮そうに「いやいやいや……」と腕を振った。

「……じゃあ、オレ課長に呼ばれてるんで行きます。すみません。田中、また後でな」


 藤田さんの顔には、先程よりもほんの少しだけ光が差したようにも思えたが、去って行く後姿には、やはり今までに見たことのないような表情が浮かんでおり、私はしばらく言葉にならなかった。
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