ドライヴ〜密室の教習車〜
 私達の勤め先である、ここ《緑野ドライビングスクール》は、ある地方の小さな指定自動車教習所である。

 私はまだ一年目の新米教習指導員で、弥生は事務員だ。

 弥生は配車の仕事もしているので、私が何時間目にどんな教習生を担当するのか……ということも彼女の手中にあるのだ。

 それはともかく。
「3時間目って?」

「あのね、昨日入校したおもしろい教習生をあんたに入れといたの」

 弥生はなぜか雑巾を手放さない。
 それどころか、先程よりもさらに力を込めて握り絞めている。
 汚い汁がたれそうで、ヒヤヒヤする。

「おもしろい教習生ってなによ。場合によっちゃ失礼にあたるかもしんない」

 私が冷静に言うと、弥生は目を輝かせて声を弾ませた。
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