私の恋人は布団です。
「延さん,ごめんなさい。俺,約束破って……。でも,少しでも延さんの傍に居たくて……」
背中に女子のヒソヒソ話が延に突き刺さる。
「隆也君って健気よね」
「それなのに,羽河さんの態度,何?」
「ちょっとヒドイよね」
「…………」
(私が完全に悪女扱いなのはどうしてですか……顔ですか。顔)
隆也の整った顔を頭に浮かべると,その顔に極太油性マジックで落書きをしたくなる。
延は密かにそう思ってしまった。
「相変わらず,暑苦しいわね……隆也君」
「日比谷さん」
「この子は,もう許容量越えちゃったの。あんまり執拗いと……嫌われちゃうわよ?」
「そ,そうですか……。じゃあ,俺,自分の席に戻りますね」
しゅんと萎みきった隆也は,延の後ろの席に座った。
(視線が……布団の視線が背中に張り付く……)
状況があまり変っていない事に気付いて加南子は小さく溜め息を吐いた。