私の恋人は布団です。
3.布団奮闘記
【枕(まくら)定む】:寝る時に,頭にする方向を定める。枕の向きによって恋人の夢が見られるとされた。
国語辞典を手先で捲りながら,隆也は項垂れる。
(……コイビト,か)
隆也は途方に暮れていた。
延の「愛すべき」布団だった筈の隆也は,人間になった事で、どうやら最愛の相手を困らせているらしい事に気付き始めていた。
(布団のままで居た方が良かったのかもしれない)
隆也は授業を聞き流しながら延の背中を見つめる。
(俺がこうなる前は何時も俺を優しく扱ってくれたし,寝る時だって一緒に…)
延の笑った顔や幸せそうな顔が一番好きなのに,最近,延が隆也に向けた感情と言えば,怒り,諦め,呆れなどおよそ隆也の望むものではなかった。
「はぁ……」
授業が終わっても,隆也は落ち込んでいる様子だった。