私の恋人は布団です。

 隆也が放課後に生徒会室へと通っているとは知らず,延は隆也の居ない部屋に居た。


(まだ,帰って来てない……)


 延は押入れの布団を置いていたスペースが空いているのを眺めながら思った。


(今日もクラスメイトの女の子に囲まれてたけど……助けてあげた方が良かったのかな……)


 あの情けない顔が浮かんで,延は首を振った。


(布団とは言え,一応人間なんだし。ちょっとは女の子に持て囃されて嬉しいとか思っているんだわ,きっと……)

 最近,隆也は前ほど延に触ったり,甘えた風にしなくなった。

(それまでが過剰すぎたんだけど)

 延は,机に向ってテキストのテスト範囲のページを開く。

(居ないと,居ないで……部屋が静か過ぎると言うか……)

 ぼんやりと有らぬ方向に思考が飛んで,ハッとする。

(ただ,心配なだけよ。……そう,私は保護者みたいなもので……)

 考えを自分の納得のいくように軌道修正しながら,延は純真そうな隆也の顔を思い浮かべた。

(それより,騙され易そうだし……変な人に引っ掛かってないといいんだけど……)
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