私の恋人は布団です。



「人間に、なりたい?」

登校中、延は隆也に尋ねた。

殆んど独り言に近かった。


「え?」

「だから、隆也は人間になりたいと思うかって聞いてるの」

「……えぇと」

隆也は心中複雑だった。
もうすぐ、自分は布団としての役目を失うだろう。
延の布団は、丈夫そうに見えても中の絹は痛んでいた。
それを自分が宿る事で持ち堪えていたとは言え、よりしろには出来なくなってきている。

それでも、自分の取り柄は布団として延を幸せにすることだと言う自負も矜持もある。

だが、布団ではない自分は延に何が出来るのだろう。

ましてや、人間になるなど途方もない望みのように思えて、隆也は考えないようにしてきた。

「考えた事、ないです」

「……そっか」

「でも、俺、延さんの布団でいられるだけで幸せですから」


隆也の微笑みは延を切ない気持ちにさせた。

目に見える諦めが腹立だしい。

同時に、愛しく思う。

異性に、いじらしいなど思ったのは初めてだった。



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