野良神様の32分間
それは、一瞬だった。
『堕ち神』は袖から鏡を出すと、目の前の男に向けて、呪文のようなものを唱える。
「人の怒、悲、苦、憎から生まれし黒き群衆よ。醜悪なその心を砕き、その身を大神によって裁かれよ。吾、大神に仕え人を護りし羅神なり・・・」
鏡は純白に光り、その輝きが段々と広がってゆく。
「・・・・綺麗・・・、ん?・・・・・何、これ・・・」
首元に違和感を感じ、見てみると母の形見であるネックレスが純白に光っていた。
それはまるで、鏡と共鳴しているような・・・
「お前のような落ちこぼれが、まさかまだ、そんな物を持っていようとはな・・・」
「落ちこぼれとは、言ってくれるではないか」
「そうだろう。・・・あの女の死に様ならよく覚えている。本当に馬鹿な女だった」
「・・・黙れ」
「護るべき者から護られた気分はどうだった?さぞや悲しいことだろうが」
「・・・・・れ」
「本当・・・・・・・・・・・可哀想に」
「黙れ!!」
鏡を棄て、腰に付けていた刀を抜き、男に向かって走る。
大きく振り下げた斬撃はかわされ、逆に男が胸から銃を出した。
「あっ、馬鹿!何してんのよ!」
危機に気付いた季柚は、大声で叫ぶ。
ただ、それしかできない。
「安い挑発で頭に血が昇るのは変わっていないらしいな。・・・・安心した、よっ」
「(しまった!撃たれ───)」