野良神様の32分間
男が消えた空間が歪み、暫くの間、そこを見つめていた。
「・・・・・な、何・・・何だったのよ」
「今のは、人の悲しみや苦しみ、憎しみから生まれた者だ。俺達はそいつらを『黒き群衆』と呼び、お前みたいな人間を護っている」
「私、みたいなのって・・・・・、普通の女子高生なんだけど」
「普通?何言っているんだ。こんなでかい女子高生が・・・グハッ!!」
「それ以上言うと殴るわよ」
「いや、もう殴ってるぞ」
殴られたところを擦りながら立ち上がる堕ち神は、「本当に乱暴な主だ・・・」と言って苦笑いをした。
「誰が主になるって言ったのよ!私は絶対嫌だから!」
「私の名を呼んだ瞬間、契約は結ばれた。もう契約破棄は許されん」
「そ、そう言うことは最初にっ・・・・・・、そう言えば、何で私貴方の名前を・・・」
あの時の不思議な感覚を、季柚は思い出す。
身体が浮いたような、暖かくて、優しくて、安心するような、そんな感覚を。
(あの声は、確かにお母さんの声だった。・・・・・でも、何で?)
悩む季柚の姿を見て、堕ち神はクスリと笑った。
「今日は散々だったろう。少し休め」
「その前に、貴方に聞きたいこと、が・・・・」
急に襲ってくる眠気で、季柚の身体は前に倒れる。
それを堕ち神は優しく抱き止め、季柚の耳元でそっと囁いた。
「季柚・・・・・いい子だから、私の言うことを聞きなさい」
それを聞くと、季柚は完全に眠りについた。
「さてと。・・・時間がない。急ぐか」
堕ち神は季柚を抱き抱えると、その場を去った。