野良神様の32分間
「所詮、この程度か」
細い糸がピンと張ったような、そんな感覚が季柚の全身を駆け巡った。
先程までの頭痛も耳鳴りも一瞬にして消え、ただ透き通るような冷たい声が、脳内で静かに響く。
まるで無音の水面に、水滴が落とされたような。
それは紛れもない、自分を心配そうな表情で見つめていた男の声。
「首飾りは、どこにある」
「首、飾り?・・・え、まさか、これのこと、ですか?」
着けていたネックレスを見せると、男の目の色が変わった。
「それは凄く危険なものだ。・・・私が預かろう」
「危険って・・・・これは母の形見です!」
「形見?・・・そうか、お前・・・」
男が何か言いかけたとき、一瞬にして目の前が鮮やかなものへと変わり、誰かに抱き抱えられた。
「え!?な、何っ!?」
「まったく・・・世話が焼けるお嬢さんだな」
「ちょ、誰っ!?」
「ついさっき言葉を交わした恩人のことを、もう忘れたのか。どうやら本物の馬鹿らしい」