カタチのないセカイの為に
出てきたのは、
買ったばかりのサブレーだった。
「これ、今、食べる用だよ。」
サブレーを、楽しそうに配っている。
美咲は、楽しそうな笑顔だった。
一週間前までは、
優潤に与えられる事の無かった、
その楽しそうな笑顔が、
優潤には優しい笑顔に見えた。
サブレーを食べたくない訳ではない。
むしろ、美咲が手渡してくれるのは、嬉しい。
でも…。
もし、食べたくない物が、袋から出てきたとしても、その笑顔を見たら、
食べちゃうんだろうな。
彼女の笑顔は、優潤を半強制的に動かす事が出来てしまう。
優潤も、笑顔でサブレーを受け取った。
昔と同じ、変わっていない。
美咲と理子がバイトをする為に、
ここへ来て3週間。
優潤と健吾に出会って2週間。
四人で一緒に生活をして、1週間。
男の人と、話を滅多にしなかった美咲は、
夏休み前とは確実に変化し始めていた。
幼かった頃に
近くなってきているのかも知れない。