カタチのないセカイの為に
風が弾く木の葉の音。


夏の虫の声。


その全てが、
懐かしい気持ちに浸れる場所だった。


昔、手の中で掴んでいたはずの物。

いつの間にか、指の隙間からすり抜けて
無くなってしまった物。


それを、
取り戻せるような場所のような気がした。



美咲は、左腕を庇うように重心を掛けて
立ち上がる。


立ち上がってみると、高い壁のような石積みは、
肩より少し低い高さだった。



『携帯、探さないと。』

辺りを見回す。



暗くて、良く見えない…。


「携帯電話さぁーん。何処ですかぁー。」

返事をしてくれるはずも無い携帯電話に
思わず、呼びかける。


勿論、応えは返ってこない。


「携帯電話さぁーん。」


草の陰も見落とさないように、
膝から太ももの辺りまである草を
掻き分けながら探す。



見つからない…。



美咲は、草を掻き分け、辛抱強く携帯を探した。


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