カタチのないセカイの為に
優潤は、石積みから『ピョコッ』と下りると、
美咲の頭を撫でた。


「もう大丈夫だろ。」

美咲は、コクリと肯いて
まだ繋がっていた電話を切った。


もう大丈夫。
大丈夫なはずなのに…。


泣きたい訳じゃないのに…。


涙を止めたいのに…。



何故か、涙が止まらない。


自分の意思とは逆に、眼から溢れてくる…。




『ザワザワザワ……』

近くの草の中からする音を優潤は聞き落とさなかった。


優潤が撫でていた手が、
美咲の頭から離れる。


「行こう。」

声が合図になっていたかのように、

『フヮ…』と美咲の身体が宙に浮いた。


優潤は、簡単に両腕で
泣いている美咲を抱えあげた。


そして、
そっと美咲の身体を石積みの上に載せた。


美咲の涙は、この時やっと止まった。



その時だった。


ゴソゴソとしている草の中から、
不穏な気配を感じた。


殺気だった野犬が顔を出す。


『ウ゛ーーー』
と威嚇しながら
唸りながら野犬は、優潤を見ている。



優潤は、野犬を見ながら石積み沿いに
後ろへ下がると、『ヒョイ』と、石積みの上へ飛び上がった。


< 156 / 248 >

この作品をシェア

pagetop