カタチのないセカイの為に
野犬は、石積みの下で『わんわん』吠えている。


優潤は、何事も無かったように、
美咲の前に立つ。

そして、美咲に、手を差し伸べた。


「行こう!!」


石積みの上に置かれた姿勢のままの美咲は、
優潤の手に右手を乗せて、起き上がる。



優潤は、懐中電灯で道を照らす。

美咲は、何と無く、
ほぼ並んで歩いている優潤の、
ちょっとだけ斜め後ろを
付いていくように歩いた。


辺りは、暗くなっている。



優潤は、携帯をいじりながら歩いている。

携帯を耳に当てた。
誰かに電話しているようだ。

「もしもし。」

「あー。」

「うん。」

「見つかったから、理子にも伝えて。」

「おー!!」

「じゃぁな。」

これだけの会話の内容でも、
健吾に電話している事が直ぐに分った。



電話を切ると、優潤は、美咲の顔をみた。


美咲は、真剣な優潤の表情に驚いた。
美咲には、怒っているように見えた。

そして、いつの間にか掴んでいた、
優潤のシャツの裾を手から離した。



「美咲。」



マジマジとした優潤の顔に、
美咲は不安になった。


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