カタチのないセカイの為に

『美咲ちゃーん!!』

お母さんの、妙に明るい声が
受話器越しに聴こえる。

しかし、声は一変した。


そして、早口になった。

『何処の誰?男を家に呼ぶんじゃありません。
早く、帰ってもらいなさい。
いいわ。私が言うから、電話に出しなさい。』


怒っている時に、母は早口になる。
美咲の返す間を与えないかのように…。


お母さんの憤怒の形相が、頭に浮かんだ。


これは、電話に出せない。

そう思い、必死で説得をしようとしたが、


困った顔をしていた美咲を観て、
優潤が、声を掛けてきた。

「電話、貸してみ。僕が話すから。」



お母さんの怒っている声が、
受話器を耳から放していても聞える。

恥ずかしくなった。


手を怪我している自分の為に、
優潤達が、態々来てくれたのに…。

美咲からしてみれば、
感謝しないといけない人なのに、
お母さんは、怒っているだけ。


やっぱり、結果報告にすれば良かった。

今更、後悔しても後の祭りだけど。



優潤が、手を洗って
電話に出る準備をしている。


美咲は、受話器を見詰めた。

お母さんの声が、まだ響いてる。



何故か理子は、この状況でも笑っていた。


美咲は、呟いた。
「困ったなぁ…。」
< 194 / 248 >

この作品をシェア

pagetop