カタチのないセカイの為に
「きみねぇー。今日も来たの?」
嫌味っぽく美咲が言う。
優潤が、るんるんとした声で応える。
「うん♪来た♪」
「何が楽しんだか知らないけど、折角海に来て、泳ぎもしないで、飽きないの?」
チョット疲れ気味に、美咲が訊く。
「うん♪飽きない♪楽しい♪」
優潤は、またるんるんと、応える。
まるで、『御預け』をされている犬のように、次の言葉を待っていた。
しかし、優潤の期待とは反対に、
美咲は、
何でこんなにへらへら笑っているのだろう。
と思いながら溜息をついて、お店の前にいる。
理子の方へ向かった。
優潤は、みんなで一緒に賄いを食べた『その日』から、
今日で最後の出勤日まで、飽きずに毎日来ていた。
忙しい時はお店の手伝いをしてくれる。
しかし、店長の珠子さんと時々喋っている以外の大半の時間は、へらへら笑っているか、ニヤーッと薄気味悪い笑いをしているか、ぽけーとして…
ただ、それだけで、特にその場から動かなかった。
彼は、ただ美咲を見ていたかった。
眼が合いそうになると、サッと直ぐにそらして、気付かれないように、今日まで来たのである。
彼は、確かに幸せを感じていた。
遠い夏の日を思い出しながら…
君と始めて会った『あの時』のことを……
二度目に会った時、彼女は優潤の事を
全く覚えていなかった。