カタチのないセカイの為に
入学式の日だった。
「エトウ ミサ さんだよね。」
「はい。そうですけど…。」
「僕のこと覚えてる?」
彼女は強い口調で応えた。
「は?どこかで、会いましたっけ?
全く記憶にありません!」
私に話しかけないで下さい。とも取れるような強い口調は、彼の記憶の中の彼女とは違っていた。
何日か過ぎてからだった。
彼女は男の人に対して、『怒り出す』ことを知った。大抵の人は、怒る人を相手にしない。
しかし、女子に対しては、
『優しく、元気で明るい昔と変わらない笑顔を持った女の子』まさに…
彼の記憶の中の彼女そのもので、変わりはなかった。
何がそんなにも変えてしまったのか…
どうしたら、話をすることが出来るのだろう…
後悔をしたくなかったから、時間を十分に使った。
そして、慎重に考えた。
彼は始めて知った。
感情のある『思った事』を言うのと
感情のある『気持ち』を伝えることは、
全く違うことだった。
『思った事』のように、サラッと言えれば…
「いいのになぁ。」寂しそうに微笑んだ。
タッタッタッタッ……。
「お待たせしました。オレンジジュースです。」
理子は、丁寧にグラスを置いた。
「ねぇ。顔が崩れているわよ。」