カタチのないセカイの為に
「私、眠っちゃってたんだ…。
ごめんね。ありがとう。」
「ありがとうは、優潤に言ってあげて。」
理子は、微笑んでいた。
美咲は、『ハッ』とした顔をした。
「あっ。私、謝ろうと思っていたんだった。」
理子は、安心したようにニッコリしていた。
美咲は、何かを思い出したような顔をした。
「そう言えば。私、どうやって帰って来たの?」
「気を失っていたみたいだからね。
全然、覚えてない?」
「私、気ぃ失ってたの?」
美咲は、カフェを出てからの道筋を辿った。
「カフェを出て、すぐそこのコンビニに行って…。知らない人に、カラオケ誘われて…。
それから、どうしたんだっけ?
強引に車に乗せられそうになって…。
あれ?優潤が来たような…。」
理子は、その時の様子を説明した。
「……帰りが遅いって心配して、優潤が探しに来てくれて………
あの人は先輩で…………それで……
優潤が、美咲のことをここまで運んできてくれたのよ。しかも、いつになっても優潤から離れないし、Tシャツを握ったまま離さないものだから、困っていたわよ。」
美咲は、恥ずかしいと言っているように顔を赤く染めた。
左手を自分の胸の前まで持ってくると、まだTシャツをギュッと掴んでいた。
Tシャツを手から離す。
手には、思いっきり握り締めた爪あとが、かすかに残っている。
「私が離さなかったから、起こさないでTシャツを置いていってくれたんだ。」
美咲はボソッと呟いた。
なんて優しい人なんだろう。