僕の守護する君の全て。


「ん、んな部分はどーでもいーんだよっ!!!てめぇ、頭おかし……」

「はぁーまーそーですよねぇー…?」

遮る様に割って入る声。

「まあぶっちゃけ?ボクとしても、貴方の下事情とかホントどーでもいーと言うか……。知った所で何の徳にもならないというかむしろ想像するだけで、こー…なんとも言えぬ気持ちになると言うか……」

『ほら、特にココ。』と一部分を指し示す細い指から勢いよく書類を奪いとる鹿山さん。


その手でぐっしゃりと雑に掴まれた紙を見て、僕は思わず悲鳴を上げかけた。

「かっ、か、鹿山さんっ!落ち着いて下さい!!それ、貴方にとっても大事な書類で……」

「うるせぇっ!!!黙ってろ!!」

『あ』とか『うわっ』とか思う間もなく。書類を握りしめたごつい腕で頬を殴られた僕の体が、椅子ごと後ろへと派手な音を立ててひっくり返る。

いや……他人事みたいに言ってるけど、相当痛い。頭とか背骨ぶつけたし、なんかゴキっ、とか嫌な音聞こえたし!

痛む後頭部を両手で押さえて小さく呻く僕を、相変わらずのほほーんと見下ろしながら。火に油注ぎまくりな上司から、ありがたい一言。

「あーあー…勤務中の怪我は勘弁してくださいねー?労災とか書類が色々面倒なんですから…」

「あ…あなた、鬼ですかっ!!!」

「やーだなぁ…こんな男前捕まえて。鬼なんかと一緒にしないで下さいよぅ…。」


「いやいやいや、それは鬼に対して失礼でしょうっ!!
むしろ彼らの方があなたよりよっぽど…」

「あのー……」

最早日常的とも言える不毛なやり取りの最中、隣のカウンターから申し訳なさそうに声をかけてきたのは、最近配属されたばかりの大人しい新人さん。

「あの……いいんですか……?鹿山さん…?書類持ったまま、出て行っちゃいました…けど……」

はいっ???

新人さんの言葉に慌てて体を起こせば、今まさに閉まりきろうとしていた自動ドアの向こう。後ろ姿でも分かる位に肩を怒らせながら歩き去ろうとしている鹿山さんの姿が。

ここを出て、一体どこへ行こうというのか……。いや、今はそんな事考えている場合じゃない!下手すればあの人、あのまま……。

「はーあ……。まったく。これだから嫌になるんですよ……。」

長いカウンターの端まで走って行こうとした僕の耳に言葉と共に入ってきたのは深い深い溜め息。

「まったく救い様がないと言いますか……。どうして『あの方』が見捨てないでいられるのか。正直理解に苦しみますよ、ホント。」

それなりに長い付き合いで学んだこの人のこの『物騒な』言い回し。想像しなくても次に起こる事なんて分かってる!



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