僕の守護する君の全て。


「何が悪いか理解する前にこんな事されたら、誰だって心から謝るなんて出来ないでしょうがっ!!」

「えええー?ボクが悪いとでもー?心外だなぁ、ちゃんと話すチャンスは与えたじゃないですかー」

「大体にしてあなたは短気過ぎですっ!!」

「あは♪お誉めにあずかり、こーえーですぅ♪」

ずれた言葉を返しながら『てへ♪』と笑うその顔は天使の様……いや、この言い方はおかしい。腹這いになっている僕の横に立つこの非道な上司は、こんなんでも……。こんなに性格悪くても……。

一応、本物の『天使』なのだから。


「ひっ……!」

短く上がる引きつった声に再度顔の向きを戻すと、既に首まで沈んでいる鹿山さんの姿。…かくいう僕の腕も一緒になって白いヘドロへと吸い込まれている。

「ちょ…ちょちょ…!リアンさまっ!いーから一回ストップ!!止まって!止まって下さい!!」

「あーあー…幸君。本当いい加減にしないと、君まで連れてかれちゃいますよー?」

「だからっ!!あなたが一回ストップかければ……!」

「うええー…?めーんどっくさぁーい……。」

鼻でもほじりだしそうな雰囲気言い捨て、眉をぐっしゃり寄せ、唇で思い切りへの字を書く。この人…天使を『人』と言うのもなんだけれど、まあ細かい事は置いておいて……

この天使、リアン様は常々自分の事を『男前』『男前』と言って聞かないけれど……正直こういう子憎たらしい顔している割合もなかなかに多い。だからね?本当その顔、鏡でジックリ見て下さいよ!大体にして…あなた、男前もなにもそもそも性別なんてないはずじゃ……

「さて……。幸君との楽しい会話はこちらに置いて…と…。

鹿山 一太郎。こちらをご覧なさい。」

楽しげだった口調を一変させ、こっちを見ろと促すリアン様。綺麗な指が空中にすいっ、と円を描き、そこに『窓』を作る。

チューニング前のTVよろしく暫しの砂嵐の後、ぼんやりと。やがてハッキリと。縁のない丸窓に映し出されたのは、如何わしい看板を掲げる店から鼻歌混じりで出てきた鹿山さんの姿。

どこかスッキリした雰囲気で騒がしく光輝く通りへと歩き始めた…正にその時……

背後から走り出た『男』が彼声をかけ、そして……。

「な……あ…あ、っ…あ……」

今はあるはずのない痛みを思い出したのか……小さく呻き出した鹿山さんの目の前で、サイレントムービーごと丸窓が消える。

「覚えていますね?鹿山 一太郎。アナタは今から約2ヶ月前、現世での生を終え、天界へと戻ってきました。

……っち……。48日だか何だか知りませんがだらだらだらだら留まってないで、もーさっさちゃっちゃと戻ってきて下さいよ、ホントめんどくさい。」

いや……この場合、素直に上がって来てくれたのが奇跡と言うか……送迎担当の努力の賜物だよ……。

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