僕の守護する君の全て。

次第に冷たくなっていく口調と表情。普段はヘラヘラしているものだから分かりにくい細く切れ上がった瞳で汚いものでも見る様な視線を相手に落とす。

「だって…よう……。そ、んな…の俺が知るわけ……。」

リアン様の迫力に押され口ごもる鹿山さんに、少し大人しくしていてくれるかな…?なんて希望が過る。

ねじくれ上司を説得するなら今しかない。もうこうなってしまっては収まらない気もするけれど、せめて正式な手続きを踏んで……

そう思い、急いで口を挟もうとした矢先……

「大体っ!俺は被害者なんだぞ!!あ…あんた…天使なんだろっ?人助けが仕事なんだろっ??なら俺をこんな風にした奴に天罰とかねーのかよ…っ…!!!」

…………。

あちゃあ……。

もう隣を見上げるのも恐ろしい……。いや……見なくたって分かる。きっとそれはそれは般若の様な…

「……はっ。」

最初に聞こえたのは思い切り馬鹿にしきった鼻で笑う音。

その直ぐ後に続いた衣擦れの音と共に膝を抱え、しゃがみこんだらしいリアン様の姿が、この体勢でも横目に入る。優しく伸ばした手が鹿山さんの左頬を撫でた。

「人の子よ。あなたは僕に助けをこうのですね…?」

ぴたん、と遊ぶ様に。撫でていた頬を軽く叩き、再び撫でつつ問う。

「ちょっと待って下さい、リアン様っ!!落ち着い……」

「お黙りなさい、幸。

さあ、どうなのです?僕に。助けを。こうのですか?」

唐突に変わった相手の雰囲気に飲まれていた鹿山さんは、二度目の問いでようやく弾かれた様に頷く。

「あ、ああ!助けてくれ!俺はなにも悪く……」

「やなこった。」

慈悲を求める声をあっさり遮られた鹿山さんは、再びぽかん…と呆けた表情を浮かべる。そんな相手の頭頂部を強く鷲掴み、根性悪の天使はニヤリ、微笑んだ。

「やーなこった。だーれがテメーみてーな人間、助けるかってーの。」

ずぶんっ!!!

沼に沈む様な音を立てて地面へと鹿山さんの頭を白い手が埋め込む。当然、沈まされた彼の腕を掴んでいた僕だってその勢いには逆らえない。

「うぶ、っ…!!」

空気の一切ない粘度の高い泥の中へと顔をつけてしまった様な嫌な感覚。

ただ、下へ下へと沈みゆく鹿山さんとは違い、僕の体はただ浸かっただけ。彼の腕が完全に離れてしまう前に、なんとか握りしめていた書類だけは掴みとる事に成功した。

だけど……。

………。

ちょ……これ……いやいやいや……!顔、上げられないんですが、っ…!

り、リアン様ぁぁぁっ!!本当に苦しいですってばぁぁぁ!!!

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