学校監禁ツアー
それは異様なほどに存在感があった。
人体模型の手や腹には血がべっとりと付着している。
「まさか…な」
途端、人体模型の首が回り目があう。
「う゛」
俺は叫んだ。
「翠さん!逃げてっ」
そして、ドアへと走り、化学準備室を出てドアを閉めて周りにあった椅子やら箱やらを積んだ。
隣には呆然とした様子の翠さんがいた。
「し、進藤くん?」
「っ!はぁっはぁっはぁっはぁっ…」
バンッ
バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ
ドアの前のものが揺らぐ。
「な、に…」
「翠さん、にげようっ」
俺は翠さんの手を引っ張る。
「ドアがっ…」
理科室のドアが閉じ始めた。
俺はドアを押さえて無理やり開かせた。
「翠さんっ、はやくっ」
「でもっ…」
「はやくっ逃、げろ!俺はっ」
俺はドアをおさえつけながら、翠さんを廊下、理科室の外へと思いっきり蹴り出した。
「いっ…しんど…く」
もう限界だ。俺はドアが閉まる前に言う。
「俺は、翠さんだけには、死んで欲しくはないんだっ……好きなので」
多分、後半はかなり小さな声だったので聞こえていないだろう。
「進藤くん!?進藤くんっ」
「はやく、武藤たちのところへ!」
「進藤くん、待ってて!絶対、死んじゃだめだよっ!!私、鍵取ってくるからっ」
翠さんは走って行ってしまった。
ひとりになると、あらためて、理科室の静けさの恐怖を実感する。
「…ん?」
そういえば、先ほどまで聞こえていたドアをたたく音が聞こえない。
鳥肌が立つ。ホルマリン漬けにされた動物たちが瓶の中で動いている。骨格標本がカタカタと骨をふるわせて笑う。
俺は、化学準備室のドアの前の障害物をどかし、すこし躊躇ってからドアを開ける。
「シクシク」
「…なっ」
人体模型はいなかった。ただ、化学準備室の廊下側のドアが開いており、眞埜硲が泣いていた。
「ミドリ、シンジャウネェ…カワイソ、カワイソ、ドウシテヒトリニシチャッタノ?…デモ…」
俺は最後まで聞かずに化学準備室を飛び出した。