夏男と夏子
厨房を片付け、ゴミをまとめ、店の隅々を掃除して戸締り。
最後の残り湯でシャワーを浴びたら、すでに八時を回っていた。
明日も朝早い。
朝市場から届く食材を受け取って、ラーメンスープとカレーの仕込み、ボイラー沸かして、浮き輪膨らまして、開店準備。
――さぁ、寝るか!
と思ったが、流石にまだ八時。
缶ビールのタップを勢いよく開け、夜の海へと繰り出した。
街道沿いの材木座海岸は、日が沈んだからといって暗闇に閉ざされるわけじゃない。
街灯と国道を走る車のライトが、程よい明るさで海を照らす。
ザザァ……、ザザァ……、と引いては返す波の音。
遥か遠くに黒く浮かぶ江の島。
時折伸びるライトの明かりに、白く泡立つ波。
と、俺はそこに蹲る小さな影を見つけた。